「衣匠美」
白洲正子 撮影・藤森 武  世界文化社

これ、完全に“ジャケ買い”でした。この不思議できれいな羽織(と思っていた)に
一目ぼれして手に取り、中を見たらこれまた、 ワクワクするようなものがくさん詰まっていた。

紬、絣、上布、芭蕉布、花織、ロートン織。質感たっぷりの写真で紹介される、とっても贅沢なふだんきものをみていると、 やはり私は織りが好きだと再確認する。糸を染め、経糸を整え、機にかけ、やっと織り始めるころには仕事の80%は終わっているような 織りの仕事に20代が終わるころ挫折した私だが、やっぱり好きなのだ。

そして、染め。この本でやっと辻が花とは何かが分かったような気がする。表紙の胴服(羽織のご先祖さま)の襟部分が辻が花風の染めなのだが、 白洲正子の随筆を読むと辻が花とは非常に自由なもののようだ。脈絡のない模様を組み合わせて独特の世界を作る。いかにも 信長の生きた桃山時代のイメージだ。

そんな織りや染めの仕事に命を懸けた人たちの作ったきものや帯がページをめくるごとに表れる。ひとくちに「命を懸ける」というが、 長い年月、手間のかかる仕事を続ける困難さは好きなだけでは克服できないはず。彼らの強さがその作品に表れているように思える。 そしてそこには、白洲正子のような、時に導き、時に示唆を与え、できたものを買い上げてくれる人が必要だったのだろう。

はるか昔から織りや染めの技術を脈々と受け継ぎ、工夫を加え、こつこつときものを作り続けてきた職人の多くは名前も残さずにこの世を去っていった。 今では博物館でしか見られない技術もあるだろう。あの織りには、この染めには、後継者がいるのだろうか。本書にあるような美しく力強いものを今後も残していくために、 白洲正子ではないただの私にはいったい何ができるのだろう。

やた

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