「きもの草子」
田中優子  淡交社

表紙のきものを見て、まず思ったのは柩の中の母に着せた小紋のきもの。
扇模様の型染めを母自身が注文して、大島の白生地に染めさせたものの色合いが、この本の表紙のきものとそっくりなイメージだった。
自分で柄を選び注文しただけあってよく似合ったし、子供である私たちきょうだいも
言葉にはしなかったものの、そのきものを着た母の姿が好きだった。
そんなこともあって、葬儀の際に母に着せるきものを選べと父に言われて、
何枚かのきものの中から、弟と私が「これだね」と同時に指差したのが、
そのきものだった。

それはさておき、田中優子の「きもの草子」である。
「江戸の想像力」以来、この著者の語る江戸の話にはわくわくさせられてきたが、
そのわくわく感は「きもの草子」でも裏切られなかった。
江戸時代を研究する学者だけあってきものの趣味が粋なこと、
もちろん豊富な江戸文化の知識、
そしてアジアの布への愛情とを織り交ぜた語り口が、なんとも楽しい。
きものは親から子へと伝えられていくもの、染め直し、縫い直して、
家族の記憶をつないでいくものであると著者は説く。
そんな日本の文化が、今は忘れられがちで、
成人式の振袖には薄っぺらな色と柄があふれている。
成人のお祝いに娘に高価で軽薄な振袖を買うくらいなら、同じお金をかけて、
いまだ日本各地に残る職人が作った紬や絣を贈るほうが財産になるし、
消えそうな日本の文化を守ることにもなる、そんなことを考えてしまう。

本書でもう一つ嬉しかったのは、きものの写真が昔の「ミセス」を思い起こさせるなと
思っていたら、撮影が小林庸浩であること。
それぞれのきものの良さを存分に伝えてくれる。

男性の装いから女性のきものに取り入れられた江戸小紋や羽織、
外国からの文化を発展させた縞、更紗、絣、宝尽くし模様など、
今あるきものの基礎は江戸時代に確立されたことを
教えてくれたのは、この本だった。
2005年に手に入れて一気に読み、
その後は折に触れて本棚から抜き出しては、読み返している。
妙に気取ることもなく、気負うこともなく、布を愛して、
きものを身にまとうことを楽しむ著者の姿勢が、好ましい。

やた

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