自然布 日本の美しい布
安間信裕 著 キラジェンヌ株式会社

「きもの好きの本棚」久々の投稿は「自然布 日本の美しい布」。

きものを着るようになると、素材への関心が高まる。
一般的には、まず絹だろう。その手触りを楽しむうちに、やがて紬に興味が湧く。
夏は浴衣。浴衣にも綿コーマ、綿紅梅、綿絽などがあるし、
浴衣以外なら盛夏ならずとも麻のきものに目が向く。
さてその麻だが、日本で古来から衣料に使われてきた麻である大麻(ヘンプ)を
現在の法律(家庭用品品質表示法)では 「麻」と表示できないのをご存じだろうか。
「麻」と名乗れるのは、亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)だけなのである。
縄文時代からついこのあいだ(昭和の初めごろ)まで
日本の衣料の中心をなしてきたと言ってもいい麻が
「麻」と名乗れないなんて、どこか歪んでいる。

3年前に、その麻(大麻)と出合ってしまった安間信裕さんが怒涛の勢いで、
麻について学び、麻とその他の自然布を蒐集していった結果が
この「自然布 日本の美しい布」である。

本書で執筆を担当した宵衣堂の小野健太さんと安間さんの出会いは、
さらなる熱量と知識への深い探求を生んだように思える
小野さんといえば、話しかければ泉のように湧き出る自然布への愛と知識が印象的な方。
以前から自然布を体系的にまとめたいと願っていた小野さんが書いた解説は、
自然布を理解し、自分たちの身に引き寄せて考えることを可能にしてくれる。

衣服を着られるか着られないかは、ヒトの生死に関わる。
ほかの動物のように毛皮を持たないヒトは着るものがなければ生きられない。
二足歩行をするようになった人類は、活動が活発になり体内に熱をためた。
そして、熱に弱い脳を守るために体毛が薄くなり汗腺が発達して体を冷やした。
ただ確実に冬はやって来るわけで、その時体を覆うものがなければ命はない。
一晩食べなくても生きていられるが、
着るものがなければ一晩で命を落とすことだってあるのだ。
お金持ちでも庶民でも、それは同じこと。絹で身を包める高貴な人たちとは違い、
庶民は身の回りの環境から「衣」を賄う素材を得なければならない。
日本各地それぞれの環境で得られるそれぞれの素材で、人びとは体を守る服を作り続けてきた。
縄文時代から数えても1万5000年、営々と手仕事が続けられ改良されて、
そう遠くない昔まで人々の身近にあった自然布の姿を、
本書は私たちに見せてくれる。
そして、今や消費財となってしまった衣服を着る私たちに
「着ること」の意味を再考する機会を与えてくれる。

ヤタ



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