大浮世絵展と帯のこと

両国の江戸東京博物館で開催中の「大浮世絵展」。
「浮世絵の傑作、大集合」というだけあって、超有名だけど実物は見たことがなかった浮世絵の数々に出合えます。

浮世絵以前の第1章から近代の美人画などの第6章まで時代を追っての展示は
日本の風俗の歴史をも見せてくれる興味深いものでした。
第1~2章は展示数は少ないものの、国宝の彦根屏風を間近に見ることができたのが収穫でした。
ひと口に江戸時代と言っても260年という長い年月の、その初期の頃の風俗がよく分かります。
特に帯は、まだ紐だったり、ごく細いものだったり、時代劇の江戸風俗とはずいぶん違います。
小袖の文様は、雪輪、稲妻、芭蕉、色違いの絞りの横縞など、どれもかっこよく、見飽きません。
真ん中あたりで脇息にしなだれかかっている女性は難しそうな扁額がちりばめられた小袖を着ています。
それにしても、いくら近くで見られるといっても見れば見るほど欲が出て、細部まで見たくなります。
隣のおじいさん、双眼鏡で見ています。見回してみると、単眼鏡を持参している人も。
次の機会には是非、私も双眼鏡持参でと思いました。

第3~5章はいよいよ浮世絵のオールスターが並びます。
ここでもまた、双眼鏡があったら!と悔やんだのが鈴木晴信の「雪中相合傘」。
上品で優しいこの絵は男性の黒い衣装も女性の白い衣装も、
非常に細かな空摺りで文様を浮き出させているのですが、それがよく見えない。
じーっと見ていると、だんだんと空摺りの文様が分かってくるのですが…。
浮世絵というのは、だいたいがそれほど大きい絵ではないので、
細かいところは、これが本当に人間の手わざによるものかと思うほど細密です。

今回、特にじっくり見たのが鳥居清長です。
八頭身(いや、九頭身か)美人のきもの姿の美しさといったら、ホント惚れ惚れします。
例えば「吾妻橋下の舟遊び」「大川端夕涼み図」。小さな顔にすらりと伸びた肢体…、憧れます。
また、きもののぞろりとした着方といい、アバウトな帯の結びといい、「きものって自由だったんだ」と思わされます。

さて、そこで気になってきたのが、その締めてるのか締めてないのか分からないような帯結び。
今、主流になっているお太鼓結びは江戸時代後期に亀戸天神の太鼓橋が再建された際に、
時代のファッションリーダーであった深川の芸者衆が、考案したと言われています。
では、それ以前はどうだったのか。時代劇だと、武家の女性は文庫、町娘やおかみさんは角だしとほぼ決まっていますが、
浮世絵ではあまり目にしません。だいたい、なんかダラッとしています。
幅広の帯は、胸の下から腰までを覆うものもあり、きりっと結ぶというより、体を包んでいる感じです。
結び目は前だったり、後ろだったり(四季遊花之色香 喜多川歌麿)。

江戸時代の帯結びって、本当はどうだったのか調べていくと
東京織物卸協同組合のサイトに江戸時代の帯結びのイラストがいくつもありました。
「よしお結び」とか「路考結び」とか、いろいろな名前の帯結びがあったんですね。
でも、どれも今の芯が入った帯で結ぶと浮世絵のようにゆったりとした感じにはなりそうもありません。
特に平十郎結びや水木結びなどはある程度柔らかい帯でないと格好がつかなかったのではないでしょうか。
今ある帯なら、兵児帯がこれらに近い感覚で結べるのではないかと思います。

  

今とは違って、きもの以外での生活は考えられなかった江戸の人たちですから
締めて疲れるような帯結びではなかったのだろうと思います。

現代に暮らす私たちも、きものを着るなら、堅苦しくなく、楽に着られたらいいなと思います。
だから、後ろで結ぶお太鼓だけじゃなく、前で結んで後ろに回せばいい半幅帯や兵児帯も
どんどん活用して、楽ちんにきものを楽しんでみたいものです。

ところで、江戸東京博物館は東京の東にあります。
その7階レストランから見た東京の風景は、見慣れた東京とは違って、なんだか新鮮でした。
写真中央左寄りの奥のほうが新宿です。

あ、「大浮世絵展」では、北斎や広重の代表的な浮世絵も見られます。
富嶽三十六計 凱風快晴」、いわゆる赤富士ですが、あらためて本物を見ると
富士山より、青空に浮かぶ鱗雲のほうに心惹かれます。
富嶽三十六計 神奈川沖浪裏」を見れば、
こんな小さな絵のなかにダイナミックな世界を描き出し、世界中の人を魅了した北斎は、すごい!と再認識。
広重の「大はしあたけの夕立」の雨は、すべて同じ角度で降っているのだと勘違いしていたことを発見。
実物を見れば、もおっともっと繊細な描写なのだと分かります。

「大浮世絵展」は、東京では3月2日まで続きます。
一度、足を運んでみたらいかがでしょうか?

文・写真 八谷浩美

14 January 2014