「能面と能装束」 日本橋・三井記念美術館

吸う息さえ熱い酷暑が続いた今週ですが、土曜日の今日は朝から曇りで、雨も降り出し、少し気温が下がりました。
暑さにサボり癖がついていた体にムチ打ち、出かけていくには良いきっかけです。
向かう先は、日本橋・三井記念美術館の「能面と能装束」展。

私としては、能面より装束のほうに興味があったのですが、
まずは順路どおりに能面から見ていきます。
秀吉が愛したという「花の小面」は頬がふっくらとして若い女を表すということですが、
現代の私の目から見ると、そのぽってり加減は中年の女に見えてしまいます。
一方で、少し年かさの女を表す「孫次郎(オモカゲ)」のほうは、すっきりとして若く見える。
女性の美の基準やその表現は時代によって変わるからなのでしょうか。
面白いのは、「花の小面」も「孫次郎(オモカゲ)」も右の口角が左より少し上がっていること。
角度によって表情が変わって見える一因は、そこにもあるような気がしました。

鬼神面の「不動」の面は、つけると顔から離れなくなる(きゃ~!)という言い伝えがあるそうで、
裏を見ると、血の痕のようなものが・・・。
楳図かずお好みの怖いお話ですが、その血痕らしきものは
面の材から出たヤニらしい、という説明書きがありました。
その「不動」の面より、数段強烈なのが「景清」の面。
「景清」は簡単に言っちゃうと、落ちぶれた平家方の武者の物語なのですが、
この出目満照作「景清」の面の壮絶さ、悲壮さは言葉に尽くしがたいものがあります。
これを見るだけでも、この展覧会に行く価値はあるかも。
能面に興味ないとか言っておきながら、けっこうじっくり見てしまいました。

さて、お目当ての能装束の展示室へ進みましょう。
まず最初に展示されているのは「蜀江錦翁狩衣」。
そう、「クマさんの文様がたり」99回でご紹介した、あの蜀江文様の装束です。
四角形と八角形の組み合わせに唐花を組み込んだ文様は、華やかながらすっきりとしています。
次は「葵の上」の六条御息所の衣裳としてポピュラーな鱗文様の摺箔の小袖。
これは見ただけで、般若の面が思い浮かびます。
鱗文様は嫉妬に狂った女→蛇を表すそうです。女の嫉妬って、男にとってそれほど怖いものだったんでしょうね(笑)
刺繍七賢人文様厚板唐織」という刺繍と唐織の文様で埋め尽くされた装束が、すごかった。
全体が渋い金色に見えるのですが、近づいてみると、これが・・・。
とにかく、いろんな人物や動物や器物、植物がひしめいています。
これに費やした労力とは、どんなものだったのか、考えるだけで気が遠くなります。これも必見ですね。

最後に歌舞伎の衣裳の展示もあります。
こちらは能装束に比べると、分かりやすいと言ったらいいのでしょうか。
石川五右衛門や松王丸の衣裳は、役柄を観客に理解させる手助けになるようなデザインです。
重量級の能装束を見たあとだと、分かりやすさに、ちょっとほっとします。

美術館を出て日本橋を歩くと、ものすごい勢いで再開発が進んでいるのが分かります。

思わず「高島屋、頑張れ!」と心の中で、つぶやいてみたりして。

「能面と能装束」は9月21日までです。

文・写真 八谷浩美

23 August 2014