江戸小紋体験会
楽しみにしていた「江戸小紋体験会」に早起きして、行って来ました。
元町中華街から みなとみらい線~東横線で日吉乗り換え、目黒線~三田線で新高島平まで。
板橋区高島平にある小林染芸さんです。
染色の仕事場に入るのは初めてなので、興味津々。
長板は頭上に収納するんですね。省スペースというか合理的です。
ちなみに長板を掛ける逆十字形の建具の床からの高さは、お父様、小林茂徳氏の背の高さだそうです。
「江戸小紋体験会」では、私のような素人でも、江戸小紋染めの一通りの工程を体験させていただけます。
まずは型紙選びから。
工房の両側に並べられた たくさんの型紙から、好きな柄を選べます。
どれも素敵ですが、超初心者の私は比較的 柄の大きい「梅尽くし」にしました。
参加者は、おのおの二尺(76cm)の一越ちりめんに、選んだ型紙で染めることになります。
長板に布を張ります。
長板には予め餅粉で作った糊が引かれていて、布を地張りするときには湿らせ、布が貼りつくようにします。
ちりめんをきれいにまっすぐ張りつけるのは、けっこう難しくて、何度もやり直しました。
餅粉と糠と塩に炭を混ぜた防染糊と檜製のへら(右下)。
地張りしたちりめんの縁にはマスキングテープを貼って、長板を汚さないように。
テープを貼ってみると、布端が波打って地張りが下手なのがよく分かります。
最初に置いた型紙の場面は、写すのを忘れました(これは先生の小林さんが撮ってくださった写真です)。
型紙を送って、2回目の糊置き。へらで防染糊を型紙の上から載せていきます。
文様が ずれないように型紙の中に2か所ある「星」で位置を合わせるのですが、一方を合わせると、もう一方がずれる。
見かねた先生が助けてくださいました(笑)
私が選んだのは寄せ小紋「梅尽くし」の型紙ですが、きれいに糊が載ったのを見て、感激。
これは私が上手なわけではなく、型紙で染めるという技法のたまものです。手描きの染めだったら、ど素人は手も足も出ません。
型つけした防染糊が乾いたら、いよいよ染色です。
染料を混ぜた色糊を載せていきます。チョコレートのテンパリングみたいですね。
糊をしごいて延ばすため「しごき染め」というそうです。厚すぎず薄すぎず、プリペイドカード1枚分だそうですが、難しい。
色糊が載ったら、全体におがくずを振りかけます。「塩コショウの感じじゃなく、土俵に塩をまくぐらい」だそうです。
染料を布に定着させるために、こうして枠に吊り下げ、蒸し箱に入れます。
このとき、色糊の載った布どうしがくっつかないようにおがくずでカバーするのです。
これが、ただのおがくずじゃない。何種類かの木のおがくずをブレンドして、水にさらしアクを抜いた特製のおがくず。
そんな貴重なおがくずですから、薄い色の染めの時から使い始め、最後は黒というふうに使いまわすそうです。
もうもうと湯気の上がる蒸し箱。蒸気を均等に回すため、底にはおがくずと麻袋が敷かれています。
蒸し箱に布を収め、蒸し上がるのを待ちます。
蒸し上がるのを待つ間、染料のお話、型紙のお話、いろいろ伺うことができて楽しかったです。
直接染料はいまだにドイツ製のほうが質が良いそうです。バイエルでしたっけ?
江戸時代の型紙も見せていただきました。送り幅が今よりずっと短いのは
全体の工程の中で型紙を彫る時間を短くして、染めの時間の割合を増やし、どんどん売るためだったとか。
興味深いお話をもっともっと伺いたかったのですが、蒸し上がりの時間が来ました。
湯気の中から取り出した布を水槽で水洗い。おがくずと糊を落とします。
リズミカルにシャカシャカとカッコよくやりたかったのですが、そうはいかず水が顔に跳ね返ってくるばかり。
やがて見えてきました「梅尽くし」が。
乾くのを待つ間、お二階で小林染芸さんの作品の数々を見せていただきました。
江戸小紋というのは、見れば見るほどおもしろい。拡大鏡必携の世界です。
しかもそれが、「遠目に見ると無地なのに」ってところが、かっこいい。
そして、出来上がりです。
あらためて、素人の私にもこんなことができちゃったことに驚きます。
もちろん、最初から最後まで小林さんが手とり足とり教えてくださったからですが。
ところで、型紙の文様のなかにひそむ、型紙を送るための目印、「星」ですが、こんなに小さいんです。
この小さい丸が型の両側に1つずつあって、それをきっちり合わせるなんて、腰が痛くなりました(笑)
それにしても、わくわく楽しい半日体験でした。クセになりそうです。
小林染芸さん、本当にありがとうございました。
今回、小林染芸さんで江戸小紋染めのひと通りの工程を体験させていただいたことで、
伝統工芸の職人の仕事の一端を体で感じることができました。
様々な職域(例えば、おがくずの製作など)の連なりが一反の江戸小紋を作り上げていくことは、
一滴の水が岩の間から滴り落ち、小川を流れ、寄り集まって大河を形成するさまに似て、
流れのどこが堰き止められても、うまくいかなくなるのだろうと思います。
こういった伝統工芸のエコシステム(生態系)が壊れないことを願ってやみません。
文・写真 八谷浩美
25 November 2014
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