vol.08

特別篇 お直し

友人の車に乗る時、座席が少し高かったので、勢いをつけてポンっと
飛び乗るように座ったとたんに、どうやらやってしまったのです。
きものの背縫いのお尻のあたりの糸が切れて、ほつれてしまいました。

残念なことに私は和裁ができません。
半襟付けやちょっとした縫い物なら、それでもどうにかなります。
実際、同じように縫い目のほつれた単は、自分なりに縫っておきました。
でも、袷のきものの直しとなると、やはり躊躇してしまいます。

そこで、以前からお訪ねしたいと思っていた横浜駅近くの「美どり和裁」さんに
この袷と、自分で始末した単を持って伺いました。
単のほうは素人の直しで自信がなかったので、プロにやり直していただこうと思ったのです。
ということで「針仕事」と言っても、自分でするわけではないので、特別篇です。

横浜駅から相鉄線で1つめの平沼橋駅で降り、平沼水天宮の前を通り過ぎたら、すぐ、
ビルの2階に美どり和裁さんがあります。
迎えてくださった社長さんに、さっそく単と袷を見ていただくと
「単のほうは、このままで大丈夫でしょ」ということで
袷のほうだけをお願いすることにしました。

袖つけの内側を開き、そこから手を入れての作業になるそうです。
表からばかり考えて、どうやったらいいのか頭をひねっていましたが、納得です。

美どり和裁の社長 城戸さんにお話を伺うなかで「きもの文化」という言葉が出てきました。
今まであまり意識したことがなかったのですが、
きものを着ること、あるいはきものまわりのあれやこれやが形成するのが
「きもの文化」なのかぐらいの認識だったかもしれません。
しかし、城戸さんのおっしゃる「きもの文化」とは、
日本に洋服が入る以前からの、日本人の衣生活全般にわたる文化のことでした。
反物を裁つところから始まり、仕立てて、着て、ほころびたら直して、
大切に三代先まで伝えていくという、ちょっと前の日本では当たり前だったことが
「きもの文化」なのだというお話は、言われてみればそのとおりですが、妙に新鮮でした。
いま、その「きもの文化」を支える職人さんが減っています。
消費者が少ないので、仕方のないことではありますが、
せっかく作り上げてきた、この文化を廃れさせてしまうのは、あまりにももったいない気がします。

2週間近くたって、直していただいた袷を引き取りに伺いました。

きれいにほつれを直していただいたきものが、これです。
母が好きで、けっこう着ていたきものなので、糸がだいぶ弱っていたようです。
美どり和裁さんのおかげで、また着られることになりました。
ご参考までに、このほつれ直しのお代は1,620円でした。

こうした、お直しや仕立てなどの相談ができるお店を知っていると
きもの生活が、だいぶ気楽になります。
横浜近辺で、きものについてお困りの方は「美どり和裁」さんを訪ねてみてはいかがでしょう。

文・写真/八谷浩美

18 May 2014