雀
雀は一年じゅう、人間の暮らしの一番身近にいる小鳥で、いつでも可愛らしい声でさえずっていたのに、
ここ数年の間に街の中ではめったにお目にかかれなくなってしまいました。
ニホンウナギと同じように絶滅危惧種になってしまわないかと心配しなくもありませんが、
街の雀は人間に何か警鐘を鳴らしているのでしょう。
文様の中ではさすがに種類が多く、平安時代から見られます。
その中でも一番人気は「福良雀(ふくらすずめ)」でしょう。
米などを食べてまるまると太った愛嬌のある「膨らむ雀」から「福良雀」と当て字され、
吉祥の意味を込めて人気の文様になりました。
また、『宇治拾遺物語』の『腰折雀』に基づいてできた、雀の恩返しがテーマの『舌切り雀』のおとぎ話から
「雀と竹」の組み合わせ文様は庶民受けも良く、老若男女誰でもが使えるアイテムなので大変種類の多い文様となっています。
雀は動物文様の中ではスター的な存在です。
笹に福良雀
雀を上から見たユニークなパターンを意匠化したものですが、よく使われた独特な基本の形のようです。
湊取竹に雀
こちらは正面からみた愛嬌のある福良雀。「湊取(みなとどり)」は着物の柄取りの一つで、
長辺三角形の中に様々な文様を組み入れて構成した文様取りのことです。
幾何学的なパターンの中に様々な文様を入れて組み合わせる文様を「裂(きれ)取り・寄せ裂文様」とも言います。
この図は福良雀と竹林の組み合わせ文様。
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膨雀 | 笹雀 |
膨雀
まるまると太った雀、「膨らむ」から縁起の良い「福良雀」となった吉祥的な文様。
今の人から見るとちょっと怖い感じもしますが、おもしろいデフォルメで
当時の人たちにはこれぐらいインパクトの強い柄が好まれたのでしょう。
笹雀
笹を雀の羽根に見立てた、大胆な組み合わせの竹雀文様。これも当時の人たちが大好きな見立て文様。
雪持ち笹に雀
図柄ではあまりはっきりしませんが、笹との組み合わせで、雪輪文様が少し見えます。
これは笹の葉に積もった雪を表しています。厳しい冬の寒さにも羽根を膨らませて、
ねぐらの竹林の中を飛び回る元気な雀たち。
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花に雀 | 稲束に雀 |
春は花と戯れる小雀、秋は黄金色に実った大好物の稲穂に群がる雀たち。
このように雀の文様は春夏秋冬、それぞれに表現され、愛されています。
文様の中でも四季を通して使われる文様は特殊な例です。
いつも人のそばにいる、雀の愛らしい姿は人々の心をいやしてくれるからでしょう。
14 November 2012
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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