クマさんの和更紗草子 其の七

和更紗おもしろ柄④

小花文様

小さくて可愛らしい花文様はインド更紗にも見られます。
けれど、和更紗の小花文様は比較的落ち着いた色合いで愛おしく、いかにも日本人好みの型であり、色調になっています。
花の単位は小さく、小花で覆い尽くされた文様は花の配置に工夫があり、
離れてみると縞文様になったり、ドットになったり無地に見えたり、近くで見るのと離れて見るのでは趣が大きく変わります。
つまり、視点の移動による変化を楽しむことができる文様構成になっています。

江戸時代には「小紋染め」も人気が高く、一般にも普及していたので、
和更紗はその影響を受けて型染め特有の構成が行われたと思われます。
単色の小紋染めに比べ、和更紗の小花文様は4~5色を使うものが多く、人気の染め文様となりました。

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1 霰地小花唐草文様更紗 堺 江戸後期
小花堺更紗の典型的な色合いであり、パターンです。
バックを「霰」と呼ぶように、細かな点で覆い尽くしています。
「糸目」という輪郭線は赤茶色、花の色は浮世絵では
「ベロ藍」というドイツ産顔料の藍(プルシャンブルー)が鮮やか。
この顔料は幕末、堺に大量に入っています。
*画像はクリックで拡大されます
小花文様は使い勝手が良く、特に女性に人気があり、衣類だけでなく
数寄屋袋、懐紙入れ、袂おとし、煙草入れなどの袋物にさりげなく使われていたものが多く残っています。

しかし、なぜか、小花文様の「刀袋」も多く残っています。
武士が可愛らしい小花文様を?と、思いますが、これは可愛らしさではなく、
当時としてはカラフルな文様を染めた木綿が貴重な布であったので、その貴重な布を大切な刀を納めるために使ったのでしょう。
武士は結構 "新しもの好き" だったのでしょう。武士同士で自慢し合っていたかもしれません。

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2 和更紗使用の袋
小さく余った和更紗の布ででいろいろな袋が作られました。
端布も残すところなく工夫して利用していたことが解ります。
3 藍地小花文様更紗刀袋
大切な刀を入れる袋にも小花文様が使われています。
和更紗は生地が厚く、しかも通気性があるので
道具の保護には最適でした。
*下方にあるのは、文様の拡大図。

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和更紗の産地は今もって判断が難しいと前回も書きましたが、小花文様更紗はさらに解らないことばかりです。
当時の文様見本帳を調べても、京、堺に同じような小花文様が見られます。
やはり、流行の柄を少しでも早く染めようと職人が競い合ったことが考えられます。
現代のように版権などがない時代なので早い者勝ちだったのでしょう。
小花文様は地域を限らず染められていたようです。いつの時代も同じように「時代の流れ」を敏感に察知し、
行動に移すことが商売上手に繋がるのでしょう。
このように、木綿に多色染めを行った和更紗は「染め物」の歴史のなかで、一つの転換期を作ったといえます。

それにしても現代でも充分通用する柄を次々に考案していった、江戸時代の職人たちの創造力が豊かなことに驚かされます。
それは経済力が伴うことであり、町人を中心にして庶民のフトコロ具合が良かったということでしょうか。
あるいは「宵越しの金は持たねえ」とやせ我慢で成り立っていたのでしょうか。
たびたび出された奢侈禁止令も権力者の単なる傲慢さから出たわけではなく、
ある意味バブル的に豊かな時代だったからなのでしょうか。
そう感じてしまうほど、和更紗の文様はレベルが高く、量的にも膨大な数が染められていました。

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4 藍地小花唐草文様更紗 堺 江戸後期
典型的な堺更紗の色合い。
5 藍地小花文様更紗 堺 江戸後期
離れてみると格子状にも見え、
着物に仕立てたらどんな感じか楽しみ。
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6 白地小花文様更紗 長崎 江戸後期
色合いが長崎風ということで産地を長崎にしましたが、
京都堀川更紗の可能性もあります。
7 白地小花文様更紗 堺 江戸後期
離れて見ると波の縞に見える文様。
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8 霰地小花文様更紗 堺 江戸後期
離れて見るとドット柄。
9 霰地小花文様更紗 堺 江戸後期
当時の人気柄らしく同じ型の色違い文様が多く残っています。
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10 縹地小花唐草文様更紗 堺 江戸後期
まるで、ウイリアムモリスのようなパターンですが、
こちらのほうが早い可能性が高いです。

11 November 2018

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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