晩秋の聴秋閣

三溪園に移設された名建築の中でも、個人的に愛してやまない聴秋閣。
贅沢で端正な、この「小さなおうち」は重要文化財です。
“秋の古建築公開”で、聴秋閣が公開されているので、訪ねてみました。

公開といっても、建物内に入れるわけではありませんが(なんったって重文です)、
いつもは近づけない範囲まで足を踏み入れることができます。
入り口の床は木組みで、浮き出した木目が美しい。

この建物は、1623年に京都の二条城内に徳川家光によって建てられ、
その後、春日局に下賜されたあと、春日局の孫稲葉正則の江戸屋敷に移築、
明治になって牛込若松町の二条侯爵邸に移築、三溪園に移築されたのは大正11(1922)年。
その時に聴秋閣と名づけられたそうです。
昭和6(1931)年12月14日に重要文化財に指定されました。
それにしても、木製の建物というのは、そんなに解体、引っ越しを繰り返しても
見事にその美しさが保たれるものなのですね。

もともと池に面して建てられたものだそうで、三溪園でもせせらぎに沿って配置されています。

ふだんは見られない、この角度から見ると、そうとう変則的な形をしていることが分かります。

聴秋閣の脇から続く散策路も、ふだんは非公開。せせらぎに沿って登ってみます。

鮮やかなモミジとクマザサ。流れに散るモミジ。留袖の柄にありそう。

坂を上り切って、上から眺める聴秋閣。その名にふさわしく、秋の彩りに包まれています。

木の間から見る第二層の白い障子にモミジが映えます。

どの角度から見ても、惚れぼれするのは私だけじゃないはず(と、勝手に思っています)。

 

聴秋閣と一緒なら、花のない山吹にも風情を感じます。

昔々のたぶん十代も前半のころ、聴秋閣に上がって、二階に上った記憶があります。
小さな部屋だったことと、階段が異常に急だったこと、畳が今ほどきれいではなかったことを覚えています。
今から思えば、特別公開などといった貴重な機会だったのでしょう。誘ってくれた母に感謝です。
そのころから続く、この「小さなおうち」への私の憧れは、いまだ色褪せていません。

文・写真/八谷浩美

09 December 2015

バックナンバー
vol.11桜を求めて そぞろ歩き30 March 2015
vol.10スーパームーン upon 三溪園09 September 2014
vol.09梅雨の晴れ間に09 June 2014
vol.08春を探しに15 March 2014
vol.07早咲きの梅に会いに11 Febuary 2013
vol.06初詣01 January 2013
vol.05山手 イギリス館のクリスマス24 December 2012
vol.04晩秋の三溪園07 December 2012
vol.03夏の始まり、三溪園の観蓮会16 July 2012
vol.02梅雨の中休みには…09 July 2012
vol.01三溪園の花菖蒲12 June 2012