クマさんの和更紗草子 其の九

和更紗おもしろ柄⑥

和更紗の動物文様の中で「鳥」は比較的多く登場します。
人々は大空を自由に飛ぶ鳥の姿に夢や願い事を託したのでしょう

鳳凰

まず、鳥の文様の中でも多いのは想像上の鳥「鳳凰」。
中国では古くから鳳凰を龍、亀、麒麟と並んで四霊とみなし信仰していました。
鳳凰は中国の神話伝説の鳥、霊鳥です。優れた王が出て天下が治まると現れる瑞鳥とされています。
鶏のような頭、鶴のような羽、孔雀のような尾羽、色は五色絢爛という架空の鳥。
その優美な姿は吉祥性を高め、中国以外でも、日本や東アジア全域にわたって、
物語や説話にシンボライズされて登場しています。
日本では宇治平等院鳳凰堂や、京都鹿苑寺金閣の屋根に置かれているのが有名でしょう。正倉院御物にも見られます。

鳳凰は梧桐(あおぎり)の木に棲み、竹の実を食すといわれます。
桐や竹も高貴な文様であり、平安時代には天皇家の文様とされていました。
やがて江戸時代になっても、おめでたい意匠として桐、竹、鳳凰の組み合わせ文様の着物が多く見られます。
刺繍や豪華な織物も残っていますが、和更紗の鳳凰は唐花文様との組み合わせがほとんどです。
現代の人から見れば、装飾過多な顔つきや羽の形をしています。
この、異様と思えるほどの形が江戸時代の人気柄であったのでしょう。
これだけユニークな文様が商品として普及していたことから、当時の人たちの文様に対する懐の深さを思い知らされます。

花喰い鳥、極楽鳥、尾長鳥、霊鳥

いずれも想像上の鳥たち。幸せをもたらすという「花喰い鳥」。
花の枝をくわえて大空を飛ぶ姿は、人間にとってどれだけ幸せなイメージと繋がることでしょうか。
「花喰い鳥文様」の原型はキリスト教の図像からといわれています。
旧約聖書の『創世記』には、ノアの方舟の話の中に鳩がオリーブの小枝を加えて戻ってくる話が登場します。
後にペルシア、インドにも真珠をくわえた鳥が見られ、中国でも花の小枝をくわえた鳥文様が見られます。
当然正倉院の御物にも花喰い鳥文様は何種類も見られます。不老長寿の文様「蓬莱山文様」では鶴が松の小枝をくわえています。

和更紗に登場する花喰い鳥は異国情緒に溢れ、独創的すぎてどんな形か、何をくわえているのは判然としないものもあります。
それだけに、見る人によって自由に判断できるところが文様としては面白いところでしょう。

極楽鳥、尾長鳥などは区別がつきませんが、人々の願いを託すには現実的な鳥ではなく、理想的な形を求めたのでしょう。
写実的なものより、御利益がありそうな鳥の姿を文様として取り入れたと思われます。

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1 藍地鳳凰花文様更紗 堺 江戸後期
何とも不思議な顔に図案化されていますが、
これぐらいでないとインパクトがなかったのか、
大胆なメイクアップです。
インド更紗の影響を受けた文様と思われます。
*画像はクリックで拡大されます
2 赤地鳳凰寿文字文様更紗 長崎 江戸後期
中央に高貴な鳳凰文様を置き、
周囲には書体の違う寿の文字文様を配した、
とてもめでたい文様。
掛け帛紗に使用したと思われます。
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3 鼠地鳳凰花文様更紗 堺 江戸後期
色のトーンは落ち着いた色合いですが、
大胆な鳳凰文様と
現実にはない想像の花、唐花文様の組み合わせ。
4 白地鳳凰鳥獣文様更紗 京 江戸後期
一番大きな文様が鳳凰で、それを取り巻くように
おもしろい形の鳥獣たちが組み込まれています。
これもインド更紗の影響を受けた想像上の霊獣たち。
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5 白地鳳凰花文様更紗 明治
明治時代になると
定番の鳳凰文様に落ち着いてきて、
和更紗の大胆な文様が消えてきます。
6 藍地鳳凰唐花文様更紗 堺 江戸後期
典型的な堺更紗の色使い。
ドイツで作られた、この青い顔料プルシアンブルーが
江戸の後期に、大量に堺に輸入されています。
ドイツのベルリンから来たので
「ベルリン藍」がなまって「ベロ藍」と呼ばれ、
浮世絵にも多く使われました。
この更紗は水を通っていないので、
ほぼ当時のままの色が残っています。
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7 白地花喰い鳥草花文様更紗 京 江戸後期
これも大胆な表現。
稚拙な感じもするが、
江戸時代前には見られない柄で、喜ばれたでしょう。
8 白地花喰い鳥文様更紗京 江戸後期
随分大きな花をくわえていますが、
これはなんでしょうか。
バックは格子状になっていますが、
ヨーロッパの文様を参考にしたのかも知れません。
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9 茶地尾長鶏花文様更紗 明治
単色ですが、リズミカルな文様構成で、
大胆な羽の構成が唐草風にどこまでも続き、
気持ちの良いデザインです。
10 白茶地比翼手文様更紗 京 明治
比翼手とは左右対称の文様。
鳥は双頭の鷲文様だが、
『増補華布便覧』にも類似の文様見本が掲載されている。
西アジア方面の影響を受けた文様と思われます。
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11 白地鳥文様更紗京 江戸後期
鳥を数羽並べて丸い縁取り文様にした、
ユニークな構成。
鳥が判じ絵風になっていて、
一見すると鳥とは解らない、
絵師の遊び心が楽しい文様です。
12 鼠地鳥菱変わり格子文様更紗 京 江戸後期
向かい合った4羽と唐花の組み合わせが
整然と構成された日本的な文様。
和更紗の文様としては
破綻のない整然とした文様です。
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13 緑地雨龍丸文様更紗 明治
明治時代になると
和更紗本来の異国情緒がなくなり
定番の素直な表現が多くなりました。
それだけ多くの人たちの需要があったのでしょう。
14 茶地諫鼓(かんこ)手文様更紗
『増補華布便覧』の諫鼓手文様を
参考にして作られた文様。
下の図は安永10年(1781)刊行の
『佐羅紗便覧』にある「諫鼓手」文様。
「諫鼓」とは昔、中国で君主に対して
諫言しようとする人民に打ち鳴らさせるために、
官庁に設けた太鼓。
したがって、この太鼓が鳴らないことが、
世の中が平穏であることになります。
この鳥はその太鼓に
描かれていたものと伝えられています。
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11 January 2019

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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