クマさんの文様がたり

悟り絵

「悟り絵」とは言葉を絵柄に置き換え、その絵に対応する音で、意味合いを悟らせる「判じ物」の文様です。
絵から推理して答えを導き出す謎解きのようなもの、「絵で見るなぞなぞ」といっても良いでしょう。
このちょっと気取った言い回しはいつ頃から始まったのか解りませんが、
文様としては平安時代から少しずつ作られています。
江戸時代中頃から言葉遊びが流行し、それとともに「悟り絵」の衣装も多く作られるようになりました。
知識の深さと、なによりも洒落っ気がなければ生み出せない文様で、絵師の器量の見せ所。

悟り絵は江戸だけではなく、京の友禅染衣装にも見られますし、
元禄の頃から知恩院の門前などで売られていた扇にも多く見られ、京名物の一つであったようです。

釜輪ぬ六びょうたん
釜輪ぬ六びょうたん

釜輪ぬ

代表的な悟り絵文様は「かまわぬ」でしょう。歌舞伎役者は、定紋のほかにいくつかの印をもっています。
「釜・輪・ぬ」の組み合わせで、「構わぬ」は成田屋が愛用した悟り絵文様です。
江戸時代後期の七代目市川團十郎が意匠に使い、大流行した文様です。
「たとえ火の中、水の中でも辞せず、私の命はどうなっても構わぬ」といった心意気。

六びょうたん

ひょうたんを6こ組み合わせて、六びょう[無病]。無病息災の洒落言葉に重ねます。
いつまでも病気をせずに元気に働きたいものです。
そして、重ねての願い事です。瓢箪は実が鈴なりになるところから、商売繁盛や開運招福の対象でもあったのです。
頼れる物は何でも取り入れ、こんな文様を考え出しましたが、どこまで御利益がありますか…。

南天

南天

「南天」は「難」を転じることでナンテン。災難除けの意味合いを持ちます。
災難や魔除けの文様の代表でしょう。いつの時代も、どこにどんな災難があるのか解りません。
取りあえず頼れるものは何でも災難除けにしたいもの。
現代でも家の周りに南天を植えるのはこんな言い伝えがあったからです。
でも実際に南天の実は咳止めの薬であり、根は胃腸薬としても使われ、毒消しの効果があるようです。

雪月花

雪月花

中国、唐の詩人白居易の詩『白氏文集』に「雪月花の時」があり、平安時代の『和漢朗詠集』にも書き写されています。
後に、、冬の雪、秋の月、春の桜は日本の風雅を代表する美しいものとなっていきます。
文様では「雪」は雪輪、「月」は杵(月のうさぎが持っているキネ)、「花」は桜となっています。

鼓草(つつみぐさ)

鼓草

鼓草はタンポポの別名です。
タンポポは根(音)が強くて、切れないといわれ、
鼓の音がよく響くことを願って鼓の胴の文様によく使われています。

錨

錨[怒り]を縄で縛るで、怒りを抑えるの寓意文様となります。
祭事に使う馬の腹掛けにも縄と錨の文様が使われますが、馬が暴れないようにという願いです。

12 December 2012

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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