クマさんの文様がたり

留守文様

今年の恵比須講はもう終わってしまいましたが、
一年の無事を感謝し、五穀豊穣、商売繁盛を祈願する恵比須講は正月を迎える前の冬の風物詩です。
今回は恵比寿さまにあやかった文様です。
江戸小紋の文様は精緻な文様で構成されていますが、スペースの制限があり、説明的に細かく表現しづらい。
このことを逆手にと取って作られたのが、「留守文様」です。
文様の主人公として登場する人物を、わざと省略し、その人物などに関連する品物だけで構成します。

七福神留守文様

七福神留守文様

代表的な留守文様が縁起の良い「七福神留守文様」です。
鯛は恵比寿、打ち出の小槌は大黒天、多宝塔は毘沙門天、琵琶は弁財天、杖と経巻は福禄寿、
鹿の角は寿老人、袋は布袋和尚でそれぞれ七福神を表します。
江戸時代には「七福神めぐり」が盛んになり、1日で七カ所の神様を廻って福徳を祈願するコースもできたようです。
近年はもっと短時間で廻れる「七福神スタンプラリー」が人気のようですが…。

恵比寿大黒留守文様

恵比寿大黒留守文様

「七福神留守文様」を単純にしたのが鯛と、打ち出の小槌で「恵比寿大黒」です。
恵比寿さんは漁業の神と崇められ、釣り揚げた大きな鯛を抱えています。大漁旗には欠かせないアイテムです。
大黒天は飲食を豊かにする神として、米俵の上で打ち出の小槌を持ちます。
鯛と打ち出の小槌の組み合わせは留守文様となります。

大津絵

大津絵1大津絵2

「大津絵」とは江戸初期、寛永年間から始まったといわれます。
近江の国三井寺近くで売り出された民間信仰と風刺を題材にした民衆絵で、
東海道を旅する人たちの道中土産、護符として大変人気がありました。
藤娘、鬼の寒念仏、瓢箪鯰、槍持奴、雷公、座頭、鷹匠、長頭翁などが描かれています。
左が留守文様、右が解答ともいえる文様です。

高砂

高砂

箒、熊手(本来は杷(さらい))、落ち松葉の組み合わせ(白い文様の部分)。
昔は結婚式で謡われた「高砂」の尉と姥の持ち物で、主人公の尉と姥の姿は隠れています。
墨の文様は松の幹や松の実が染められた、二枚の異なった型を使用しています。
この染め物は、江戸時代後期に姫路で染められた「高砂染め」といわれるもので、「相生の松」をモチーフにしています。
幕府への献上品としても用いられた姫路藩を代表する特産品の一つです。

猿蟹合戦

猿蟹合戦

説明するまでもありませんが、おとぎ話の留守文様は大人も子どもも楽しめたことでしょう。
子どもたちが喜ぶ声が聞こえてきます。

五条の橋

五条の橋

牛若丸と弁慶は京都五条橋の上で大決闘、弁慶の長刀をひらりとかわす牛若は手には扇。

留守文様にはある程度の知識がないと解らない文様や、主人公の姿を想像するおもしろさ、
また、頓知の効いた巧妙な文様もあり、庶民の間で大いに興味をもたれた文様です。
このように、江戸時代は文様が日々の生活の中にとけ込んでいたことを強く感じます。
こんな文様の着物を着た人たちと「袖振れ合うも何かの縁」と行きたいものです。

26 December 2012

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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