クマさんの和更紗草子 其の十一

和更紗おもしろ柄⑧

象が初めて日本に渡ってきたのは、応永15年(1408)だそうです。
そして、象の6回目の渡来が享保13年(1728)。広南(現在のベトナム)から長崎に運ばれました。
翌年、八代将軍吉宗への献上のため江戸に向かいます。

享保14年3月に長崎を出発、「象様のお通り」と各地で大歓迎され、4月に大阪、そして京都に着きました。
京都では中御門天皇の上覧が行われたのですが、位階が無ければ内裏へ上がれないため、
無位無冠の象は「広南従四位白象」という称号を与えられ、参内できたといわれています。
その後、大井川を渡り、箱根の峠越えなど、多くの難関を切り抜けて5月には江戸に着きました。
そして、5月末に江戸城において将軍吉宗への拝謁が行われました。

四代将軍家綱の時代にオランダから豪華な「動物図鑑」が幕府に献上されていました。
暫く間があり、その図鑑がやがて八代将軍吉宗の目に留まり、
インド産の白牛、ダチョウ、ジャコウネコ、シチメンチョウ、クジャクや猟犬、
そして「象」などが輸入されました。
当時の日本人にとってはこれらの珍しい動物を直接見ることで、
海外への好奇心がより深くなったことは間違いないでしょう。

大きな体のわりには優しそうな瞳をした象が、
人間になついている姿に当時の人たちは大変な興味を感じたことでしょう。
長崎から江戸までの長旅によって、多くの日本人が象を目にすることになり、大フィーバーになりました。
和更紗の「象文様」を見ていると、人と動物の温かい関係がはっきりと伝わってきます。

このように、江戸時代の人のなかには実際の象を見た人もそれなりにいたので、
文様の中では想像上の龍や鳳凰に比べて写実的に描かれています。
また、体毛、皺などが必要以上に細密に文様化されているのは、
絵師にとって、こういったところが特徴的に目に焼き付いたのでしょう。

第4回の「長崎版画」でも触れましたが、当時の長崎の風俗を版画にした、
長崎土産の長崎版画にも象の絵柄が何枚もあります。
象の背に当時流行の「インド更紗」を乗せ、その上で象遣いが巧みに象を操っています。
これらの版画も和更紗文様の参考にされたと思われます。

余談ですが、東京中野区朝日が丘公園には、この象の象厩(きさや)跡が残っています。
吉宗に拝謁を終えた象は現在の浜離宮公園で余生を送り、中野に移ったようです。

画像1

1 白地象花唐草文様更紗 長崎 江戸後期
実際の象を見て描いた文様でしょう。
象の体毛や皺などよほど気になったと思われます。
リアルすぎて文様としては、やり過ぎ感があります。
正面向きというのも難しい構図に挑戦したものです。
長崎更紗の特徴を出している図柄と色調といえます。
*画像はクリックで拡大されます
2A 増補華布便覧「人形手」 安永10年(1781)
和更紗の指南書に初めて登場した象柄です。
インドから渡ってきた更紗に描かれた
象文様を見て書いたものと思われます。
人物が描かれたものを文様では「人形手」といいます。
画像2 

2B 白地人形手文様更紗 江戸後期
象がほんのわずかしか見えませんが
『華布便覧』に影響されて作られた文様でしょう。
異国情緒に憧れて、インド更紗の面白い部分を取り入れた
江戸時代の更紗です。
端布になってしまい、象の下半分が見られないのが残念です。
右側にはインド人らしき人物が半分見られます。
画像2 

画像3 

3 茶地象牡丹文様更紗 長崎 江戸後期
全体は約50㎝四方の風呂敷状の木綿布です。
中央に象が組み込まれています。
この象も比較的写実な表現になっています。
4 黒地象雨龍文様更紗 大正
明治から大正時代になると
このように単純化された文様が多くなります。
画像4 

画像5 

5 白地紅毛人鳥獣文様更紗 江戸後期
絵柄の密度が大変濃い文様です。
人間の多さ、動物の種類の多さ、
陰影を付けたような色使い。
和更紗のなかでも最も質の良い文様構成でしょう。
異人さんたちの顔の表情まで良くとらえられています。
象が笑顔に見えるように、ほほえましい光景です。

技法的には白い部分など、
どのような方法を使ったのか不明な点もあります。

11 March 2019

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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