クマさんの文様がたり

門松

正月といっても昨今は住宅事情もあり、家々の門口に門松が立てられることは限られてしまいました。
我家では正月飾りは簡単なものですが、手作りです。
稲わらを使って「おやす」という神様に捧げる食器を作り、門松などに飾り付けます。
今では子どもや孫たちが愉しんで作ってくれています。

古くから松は生命力が強く精霊を見ることができるとして、新年には門松を置きます。
松は歳神(としがみ)が降臨する木、神の依代(よりしろ)と考えられて、
正月の神様を家に迎え入れるようになったといわれています。

さらに、正月だけではなく、松は客人を「待つ」に意味合いを重ね、
縁起担ぎで玄関先に松を植えたり、松の盆栽を置きました。
料亭や広い屋敷の門のそばでは必ず立派な松が来客を迎えています。

めでたい松は植物文様の中でも特に種類の多い文様なので、2回に分けてご紹介しましょう。

根引き松に束ね熨斗

根引き松に束ね熨斗

平安時代には初子(はつね)の日に、若い松を根元から抜き、「年を延ばす」として長寿祈願の印としました。
新年を寿(ことほ)ぎ、家族の幸せを願うめでたい風習です。
祝い事に使う装束や器の文様として多用された文様ですが、この図では、おめでたい熨斗文様を加えています。
根の付いた松文様は「子(ね)の日」文様ともいいます。

若松

若松

松は冬の寒さにも耐え、常に青々と生命力にあふれる瑞祥文様です。
さらに、若松は新鮮さや、希望を表現するところから、慶事の文様としての代表でもあります。
門松に使われるのも、この若松の枝です。文様では、若松の先端には三つの点(新芽)が付くのが特徴です。

老松(おいまつ)

老松(おいまつ)

能舞台などで見かける風格のある力強い松を老松といいます。常磐木(ときわぎ)の松は百木の長といわれ、長寿の象徴です。
年月を経て苔むした太い幹、そして雄大な枝振りの老樹の松には精霊を感じます。
老松の枝を三層に重ねたものを「三蓋松(さんがいまつ)」といいます。
平安時代に編まれた歌謡集『梁塵秘抄』に「松は祝ひのものなれば君が命ぞ長からん」とあります。

枝松

枝松枝松

光琳松

枝松

枝を写実的に表現した文様と、単純化させた文様です。
枝ぶりの良い松は屏風絵や浮世絵などにも多く描かれていますが、
右図のように松の枝を文様の素材として軽やかに使うこともできます。

落葉松

こぼれ松葉

こぼれ松葉

「こぼれ松葉を あれ見やしゃんせ 枯れて落ちても二人づれ」と江戸時代の都々逸に詠われたように
「落松葉」文様は、晩秋を感じさせる寂しい文様ではなく、粋な文様の代表として盛んに使われ、もてはやされました。
ご夫婦ペア使用にはぴったりの文様です。

敷き松葉

敷き松葉

「落松葉」と同じような図柄ですが、この図柄は庭の苔を霜から守るために敷き詰めた松葉を表しています。
茶人は冬の寒さから大切な苔を守るため、こんな風情ある光景を作り出しました。これも人気の文様です。

このように松文様は若松から葉が枯れて落ちても、
それぞれにめでたい意味合いを付けて、文様が考え出されています。
松を人間に置き換えてみれば、高齢者に仲間入りしている小生にとっては力強い味方となるデザインアイテムです。

09 January 2013

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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