クマさんの文様がたり

蓬莱山と松

「蓬莱山」は中国、司馬遷の『史記』に初めて描かれている伝説上の山のことですが、
蓬莱山には不老不死の仙人が住み、松、竹、梅が茂り、上空には鶴が飛翔し、
さらには亀がこの蓬莱山という理想郷を背負っています。
日本ではこの吉祥文様の図柄は平安時代の工芸品から見られるようになります。

日本人が大好きな松竹梅文様はこのようにして日本に伝来しましたが、
最近では、なぜか寿司屋のお品書きに一番登場しているような気がします。

また、松は中国の「歳寒三友思想」に基づいた文様でもありました。
松は常に緑を保ち、その緑は千年も変わることがないといわれ、不老長寿、竹は節操、梅は清らかで高貴とされました。
厳しい冬の寒さ(逆境)に耐える松竹梅は中国文人に清雅の象徴として大変好まれたテーマでした。

今回も前回に続き「松文様」ですが、パターン化された松文様を見ていきましょう。

松葉丸

松葉丸

一見、菊に見えますが日本の文様では中央に点が三つあるのが松、点が一つが菊ということになっています。
もちろん江戸時代の人たちは誰もが知っていたことです。

松尽くし

松尽くし

松葉丸、枝松、松笠、落葉松などの散らし文様。まるで、松の一生を表現したような文様です。

唐松

唐松

松葉を中心から放射状に表したものを「唐松」といいます。芽生えたばかりの唐松は一つ一つの芽がこんな感じに開きます。
これは「車軸松」ともいいます。
余談ですが、江戸時代の絵入り百科事典『和漢三才図会』には
この文様と同じ形をした「唐松煎餅」が記載されているように、江戸時代には比較的多く使われた文様です。

松の縞

松の縞

松の枝を連続した文様ですが、少し離れてみると「杉綾」(ヘリンボーン)文様のような幾何学文様にも見えます。
これが小紋のおもしろいところです。当然、文様の作り手はその効果を考えてのことです。

松葉格子

松葉格子

松葉を縦横に連続させた文様ですが、松葉の一本を折り曲げてリズミカルな格子文様になっています。

銭に松

銭に松

四角を「銭」に見立てて、その中に松を入れ、「銭が入るのをマツ(松)」と有卦(うけ)ねらい、だったのでしょう。
四角を「一」の字にみたてて、「一の字繋ぎに松」文様ともいいます。

松葉風

松葉風

風に吹かれて散る松葉の様子を表した文様ですが、文様のネーミングが風雅で気が利いています。
このように文様の名称も図柄と同じように文様構成の一つの要因になるでしょう。

松皮菱

松皮菱

角松皮菱(つのまつかわびし)

角松皮菱(つのまつかわびし)

菱形を上下に重ねた文様ですが、松の幹にイメージが近いので、このような名称が付けられました。
この松皮菱の中に様々な文様を入れて変化を楽しめる文様です。

松葉唐草

松葉唐草

松葉の先を丸めて唐草文様にして敷き詰めた文様。

2回にわたって見ていただいたように松文様は写実的な文様で愉しんだり、部分部分をデザイン化したり。
様々に有卦を狙っておもしろい文様をアレンジした、江戸絵師の発想力の豊かさを感じさせられます。
またこれらの文様を生活の中に取り入れた町衆の洒落心もお見事!
愉しんで文様を使ってくれる人がいなければ、こういった衣文化は育ちません。

16 January 2013

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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