「彦根更紗」と和名がついていますが、実はインドから渡ってきた更紗です。
いつの頃か、彦根藩の井伊家に残された「更紗裂帳」で約450枚あります。
本体の大部分はインド産「古渡り更紗」で、ほとんどが30センチほどの断片の裂ばかりです。
しかし、インド更紗のなかでも技術の高い貴重な更紗類です。
そして、彦根更紗には前回紹介した『佐羅紗便覧』(安永7年=1778)や
その後に刊行された、『増補華布便覧』(安永10年=1781)『更紗図譜』(天明五年=1785)などに
記されている更紗文様が網羅されています。
日本で刊行されたこれらの見本帳は彦根更紗と同時代に日本に渡ってきた物を見本として作られたのでしょう。
彦根更紗にはオランダ東インド会社がインドネシアやヨーロッパ、日本などの
輸入国の好みに応じて作ったと思われるものも多く残っています。
日本向けには扇、香袋、紋散らしなどの文様があります。
こうしたことから、オランダ東インド会社が染織に与えた影響は広範囲に及んでいたことがわかります。
「彦根更紗」は小さな裂ですが、現在まで大切に扱われ、
渡ってきた当時のままの状態で残っている姿を見ると、更紗裂に対する思いの深さが伝わってきます。
現在、東京国立博物館で保存され、東洋館の地下、染織コーナーに時々、数枚ずつ展示されています。
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1 枕手 香手
日本からインドに発注した図柄と思われます。
名称は後に付けられたものです。
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2 扇手
これも日本発注の文様。
扇の要の部分が曖昧ですが、
インド人には不自然ではなかったのでしょう。
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3 格天井
基本形は格天井文様で、
さらに、装飾が複雑に加わっています。
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4 鶏頭手
後に「花卉文様」ともいうようになります。
日本では人気の柄でバリエーションが多い文様です。
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5 段更紗
縞文様を「段」といいます。 段の中や段と段の間にさまざまな文様を入れて、変化を楽しめる文様です。
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6 シャム手
下側の格子文様は織り、
上側が手描き文様です。
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7 胡麻手
地紋にあたる部分の藍の小さな点を
「胡麻」とみて、
このような名称が生まれました。
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