クマさんの文様がたり

蘭、四君子

年始めから竹や梅の文様を見てきましたが、
中国には四君子(しくんし)といわれる、書画や詩の題材に好まれる草木があります。
蘭、竹、菊、梅は草木の中の君子として讃えられています。
本来、君子は人徳、学識、礼儀に優れた人のことを指しますが、
先の四つの植物はまさにこの君子に似た特色を持っているといわれます。

蘭は「清逸」。優雅な姿と、ほのかな香りで清楚な気品を備える植物です。
竹は「節操」。天に向かってまっすぐに伸び、節の空間には霊力を宿す竹は、
雪の重みに耐える忍耐力と腰を折らない節操があります。
梅は「高潔」。早春の寒さの中で春一番に凜と咲く花は、品格を保ちます。
菊は「淡泊」。草木が枯れ始める晩秋に瑞々しい香りで静かに、美しく咲き誇ります。

蘭が入った組み合わせには蘭、松、竹、梅の「四友」。蘭、梅、蓮、菊の「四愛」があります。
ただし、文様として「四君子」という場合は四つの花が、一つの文様として組み合わされているものだけをいいます。

今回は四君子の中の「蘭」文様を見ていきます。
「蘭」と「君子」の関係では儒教の創始者、孔子は切り離せません。
孔子は自らの理想とする政治を実現させるために、諸国を巡りますが、どの国でも彼の考えは受け入れられませんでした。
意気消沈して祖国の魯に引き返す途中、孔子は深い渓谷に蘭が一つ所に寄り添って茂っているのを見ました。

「夫蘭當為王者香。今乃獨茂、與衆草為伍。
(蘭は天下を治める者のそばにいて王者に良い香りを与えるべき花なのに、今はこの渓谷ひっそりと咲いている)」
そう憂え嘆いたといわれます。

また、孔子が集大成したといわれる「易経」には
「二人が心を同じくすれば、その利(するど)きこと金を断つ。同心の言は、その臭(かおり)蘭のごとし」と説いています。
その他にも孔子には蘭を愛した詩が多くあり、蘭は「善人」や「君子」にたとえられています。
中国に限らず、蘭の清らかな姿と高貴な芳しい香りは世界中の多くの人たちに愛されています。

吹き寄せ蘭

吹き寄せ蘭

蘭散らし

吹き寄せは「富貴寄せ」と語呂合わせして、めでたい名称です。

蘭散らし

蘭散らし

蘭は日本でも文人墨客に愛好された徳ある花の一つです。
享保年間以来、蘭の栽培は人気があり、植木屋が繁盛したようです。
江戸時代は、以前(第9回)にも書いたように園芸ブームで、高価な蘭鉢でも人気があり、よく売れたということです。

蘭4

蘭5

中国では蘭は「善人は蘭のごとし、王者の香りあり」といわれました。
先の孔子の詩からそう言われるようになったと思われます。この図は春蘭のようです。

私は野生のウチョウランが好きです。小さな可憐な花で、
多年草なので上手に管理すれば年を越しますが、だいたいは可愛がりすぎて根を腐らせてしまいます。何度も失敗しました。
最近はブームで蘭鉢にはとんでもない値段がつくようになってしまい手が出ませんが、
花もブームになると、まさに高嶺(値)の花になってしまいます。
江戸時代からずっと同じことの繰り返しです。

06 March 2013

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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