桜の花見
桜は奈良時代以前から稲作農業との関係が深く、花が咲けば田植えの準備が始まりました。
桜の花が長く咲いていれば豊作の兆しと思われていました。
また、『古事記』や『日本書紀』、古い工芸品の文様にも数多く見られ、古くから日本人に愛されてきたことがわかります。
江戸時代、将軍吉宗が庶民の不満を少しでもやわらげようと、人気取りの政策として江戸のあちこちに桜の名所を作りました。
『東都歳時記』には、彼岸桜は上野東叡山、単衣桜は東叡山、飛鳥山、八重桜は谷中日暮里(ひぐらしのさと)、
遅桜は東叡山、など、細かく桜の名所が書かれています。
桜の名所に出かけるのは一日がかりでしたが、女性や子どもたちは郊外に出かける機会が少なかったので大きな楽しみでした。
この日のために着物を誂えて作るのも楽しみでした。
古今亭志ん生の落語『花見の仇討』は一寸大袈裟ですが、その日のために、何日も前から花見の趣向を考え、
それなりのご馳走をつくって出かけました。
そう言えば落語には『長屋の花見』『あたご山』『花見酒』など花見をテーマにした話が多くありますが、
どの話も、大はしゃぎで花見を愉しんでいます。庶民にとっては、花見は一大イベントであったことがよくわかります。
現在の桜の名所は、ほとんどがソメイヨシノですが、葉より先に花が咲くので、見た目にはとても華やいだ感じに見えます。
ソメイヨシノは江戸の染井村(現在の豊島区駒込)が起源といわれています。植木市が盛んなところでした。
その寿命は60年といわれています。
したがって戦後まもなく植えられた桜並木はもう平均寿命を超しているので、今が桜の苗の植え時でもあります。
江戸時代は町人文化が発展したことで、歌舞伎、浮世絵、俳諧、など大衆向けの文化が興隆し、
その影響を受けた桜文様が多く見られます。
桜吹雪
歌舞伎『金閣寺』では、雪姫の姿をかき消すほどに桜の花びらが降り注ぎます。
『仮名手本忠臣蔵』では塩谷判官に花の吹雪がかかります。
桜の重ね
まさに満開の桜文様です。歌舞伎『京鹿子娘道成寺』では満開の桜の下で、美しいひとりの娘が恋を語ります。
桜菱格子
桜の枝を菱形の格子にして接点に桜の花をあしらえました。
桜文様は華やぎの象徴として、幾何学的な文様と組み合わせをしたり、様々に構成されています。
花泥棒
桜と花鋏で「花泥棒」。一年一度の物見遊山ですから、一枝ぐらいは許しましょう。
おおらかな江戸時代の計らいです。無粋な鋏もこんなふうに使うと粋な文様に変身します。
落ち桜
桜駒
先日亡くなった中村勘三郎が、歌舞伎「高坏(たかつき)」では、
「駒が勇めば、春を地に蒔く花嵐」と高足(高下駄)で軽やかにタップダンスのように踊りました。
桜の木に繋いだ馬が暴れると桜が散ってしまいます。下の図は馬の代わりに将棋の「駒」をあしらっています。
桜と将棋の駒の組み合わせにはこんな話が隠れていたわけです。私の郷里、信州には「駒つなぎの桜」という銘木があります。
私の「文様がたり」は偽客(サクラ)に頼らず、
少しずつでも江戸の文様に興味ある人たちの仲間を作っていきたいですが…。
「ヨッ! クマさん!」
やっぱり多くのサクラも応援してくれています。
27 March 2013
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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