江戸時代に木綿に色鮮やかな染物「和更紗」が出現し、やがて、一般の人たちにも普及しました。
前回に続き、この和更紗がどのように使われていたのか見てみましょう。
絹織物に比べれば安価な和更紗はお洒落アイテムとして、好都合な素材でした。
着物にうまく納められるように工夫された煙草入れや、袂落としなど、小さな袋物はお洒落自慢でしたでしょう。
そのほかにも、アイディア豊かに使われています。
現代まで残った和更紗使用の物を見ると、洒落た文様や面白い文様を巧みに使いこなし、とことん楽しんだ様子がわかります。
|
1 白茶地唐花唐草文様更紗 京 江戸後期
江戸の街は火事が多く、「火消」は江戸時代の中頃に、幕府によって定められた組織です。
「武家火消」「町火消」などがあったようですが、この頭巾は町火消が使ったものでしょう。
頭巾の裏側におしゃれな和更紗が使われています。
「火消」は当時、人々が憧れた仕事ゆえに、こんな粋なデザインが生まれたのでしょう。
イケメンの火消が頭巾の端から、洒落た柄を見せれば女性にモテたことでしょう。
|
|
2 白地唐花文様更紗箱枕
江戸時代、女性の髪結いは大変手間のかかるもので、一週間以上は洗わなかったようです。
寝るときには、髪型が崩れないようにこのような背の高い箱枕を使っていました。
右の枕の底が丸いのは寝返りがしやすいようにしたためで、このように小物を入れる引き出しがついているものもあります。
枕の布の部分は和紙を巻いて、その都度取り替えました。
|
|
3 藍地紋入り網目文様更紗煙草入れ 京 江戸後期
江戸時代は喫煙が大流行し、
男女ともに刻みたばこを煙管で楽しみました。
着物にはポケット状のものがないので、携帯するには持ち運びに便利な
さまざまな「煙草入れ」が工夫されました。
歌舞伎役者が舞台で使った煙草入れなどは、すぐに流行したようです。
町民は豪華な絹織物は使えない時代、
木綿でカラフルな和更紗は絶好の素材でした。
|
|
4 白地ウンヤ手文様袂落とし 京 江戸後期
着物で出かけるときに便利な小物入れ。
紙、薬、化粧道具、小銭などなどを入れた便利グッズです。
長い紐がついているのは首にかけて、 左右に振り分けて袂に入れるためです。
「ウンヤ手」という名称は『更紗便覧』に記載されていますが、
何を意味するのかは未だに判明していません。
|
|
5 白地花丸唐草文様紙入れ 堺 江戸後期
|
|
6 縹地葡萄栗鼠文様更紗懐紙入れ 江戸後期
紙は普及していましたが、それでも貴重なものでした。懐紙は使いみちが多いので、常に持ち歩いていました。
栗鼠文様は「古渡り更紗」にもある、古い文様です。
|
|
7 風呂敷
ここに載せたのは今まで風呂敷使用といわれていました。実際、四隅が引っ張られた状態の物が多くあります。
しかし、正方形の中央にメインの絵柄があり、風呂敷に使うとその部分が隠れてしまいます。
多分、タペストリー的に使ったか、仏具など置く打敷的に使ったか、とも考えられます。
|
|
8、9
最後は私がデザインした文様の帯を2点。
生地は新井教央さん、型彫りは内田勲さん、染めは中野史朗さん。江戸時代の和更紗文様をベースに少し変化をつけました。
右は菊池宏美さんの染めですが、地紋は菊池さん得意の「板引き杢」文様です。
|
|
本来ならば5月終盤にNHKの『美の壺』で「和更紗」を扱って頂く予定でしたが、新型コロナの影響で延期となっています。
放映日が決まったらご案内いたしますので、よろしくお願いいたします。
「カタコトの会」の中野史朗さんも登場します。
これを機会に、和更紗のおもしろさが、少しでも多くの人に伝わればうれしいかぎりです。
今回で連載を終了とします。2年間のお付き合いありがとうございました。
「横浜きものあそび」は続きますので引き続きご贔屓をお願いします。
|