江戸の子どもたちと玩具文様
私の子どもの頃はほとんどの玩具を祖父が作ってくれました。
木馬から始まって、竹とんぼ、独楽、大凧、水鉄砲から鼠花火まで、様々な玩具がありました。
屋根から乗るような足の長い竹馬も作ってくれました。
器用だったからでしょうが、お手玉や、手鞠、風車などはどこの家でもおばあさんが作ってくれたものです。
でも、子どもたちはそんな遊び道具がなくても、釘一本でも「釘打ち」遊びをしたり、
どんな場所にいても工夫をして、遊びを編み出します。そして、大人たちはおおらかに見守っていました。
子どもは自分たちの一番の財産という「子宝」の意識が、社会全体に高かったように思われます。
大森貝塚を発見したモースは、「世界中で日本ほど、子どもが親切に扱われ、
そして、 子どものために、注意が払われている国はない」と言っています。
平安時代末期に編まれた歌謡集『梁塵秘抄』には
「遊びをせんとや生まれけむ、戯れせんとや生まれけん、遊ぶ子どもの声きけば、我が身さへこそ動(ゆる)がるれ。」とあります。
3.11の震災以後、仮設住宅などで「子どもの遊び声に救われる」という話を耳にします。
いつの世もそうだと思いますが、子どもは、遊びを通して世の中のことを知り、
心を通い合わせることを自然と覚えるのでしょう。
大人も子どもたちから、たくさんの喜びを受け取り、励みにしてきました。
江戸時代、とりわけ都市では町人文化が向上し、多くの子どもたちは寺子屋に通っていました。
江戸時代の識字率は世界でも最も高い水準だったといわれています。
「読み、書き、そろばん」の基礎的な教育は充実していたようです。
といっても浮世絵などの寺子屋風景を見ると、顔に墨を塗ったり、ふざけあっている子どもたちが描かれています。
手習いもそれだけ多くの子どもたちに普及していたとも見えます。
持ち遊び尽くし
春駒、弥次郎兵衛、独楽、綾などの、手に持って遊ぶ玩具。
江戸時代には、木、竹、紙、土等の自然素材を巧みに組み合わせ、おもしろい動きをする玩具が作り出されています。
江戸時代は世界に類を見ないほど、玩具が工夫されました。
子どもの玩具からは、大人のアイデアあふれる愛情が伝わってきます。
でも、江戸時代の玩具は使う子どもたちのテクニックも必要になっています。
特に、凧上げや、独楽回しは独特の技が必要で、これらを上手にできる子どもは、それだけで鼻高々です。
豆蔵・弥次郎兵衛
江戸時代に、豆蔵という大道芸人がいました。
大変な人気者で、手品や曲芸、滑稽な物まねを得意とし、皆からもてはやされました。
あやかって「豆蔵人形」まで作られたほどです。
そして玩具の「弥次郎兵衛」は「豆蔵」ともいわれました。今でいう人気キャラクター商品でしょう。
折鶴
江戸時代には折り紙が庶民の間に普及し、様々な形が考案されました。
その中でも「鶴」はデザイン性も高く、吉祥の意味合いと重ねて人気があります。
博多独楽
九州、博多地方で作られている「けんか独楽」です。
強く回すにはテクニックが必要です。ガキ大将になるような子どもはその辺は心得ていたでしょう。
振り振り太鼓
「ガラガラ」ともいわれている、太鼓型の張り子。左右に大豆をつけ、柄を回すとガラガラと音がします。
子どもをあやす時などに使います。
江戸時代には「がらがら売り」の行商人がいました。 「弁慶」という藁を束ねたものに、ガラガラや風車などを刺して売り歩きます。
一日歩いてどれほどの稼ぎになったのか心配です。
「ウルセー 俺は宵越しの金は持たネー」
跳んだりはねたり
江戸時代の代表的な「からくり玩具」です。割竹と木綿糸で作られた簡単なものです。
この文様は台の上に鼠が乗っていますが、猿の顔をした人形の場合もあります。
風車(かざぐるま)
正方形の紙一枚で、これだけの動きをする玩具はほかにないでしょう。
残念ながら日本オリジナルではないようですが、どこから伝わったかは諸説あります。
江戸雑司ヶ谷の鬼子母神で、参拝みやげとして売られていたようです。
独楽(こま)尽くし
江戸の独楽は音が出る「鳴り独楽」や、占いができる独楽、
一つの大きな独楽から小さな独楽が飛び出す独楽など独創的な独楽がありました。
でも、地方の多くの独楽は、こけしを作っていた「木地師」たちが副業として作っていました。
奴凧
「凧」は中国が発祥の地とされていますが、奴凧は「和凧」の一つです。
和凧は竹の骨組みに和紙を貼ったものですが、「うなり」をつけ、ブンブンと大きな音を出す凧もあります。
ひもの調節、尻尾の長さなどその時々で工夫が必要ですが、高々と揚がった凧を引くのは何とも気持ちの良いものです。
大人が夢中になるのがよく解ります。
現在、私が孫に、自分で作ってやれる玩具は?と考えると、寂しい思いです。
孫に出来ることは、時々訪ね来た時に、
近くの雑木林の脇でキャッチボールをしてあげる(逆にしてもらっているのか?)ことぐらいです。
それにしても、外で遊ぶ子が少なくなってしまったことが、気がかりです。
少子化に歯止めがかからない昨今ですが、本気で日本の人口問題を考えていかないと、
20年後、50年後はどんなことになってしまうのでしょうか。さらに、気がかりです。
08 May 2013
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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