燕
初夏を告げる渡り鳥、燕。冬の渡り鳥、雁が帰ると交代するように、南国で越冬していた燕がやって来ます。
『万葉集』の大伴家持の歌に「燕来る時になりぬと雁がねは国偲ひつつ雲隠り鳴く」とあります。
古くから「帰雁来燕(きがんらいえん)」ともいい、文人たちの画題にもなっています。
俳句の季語では「燕」は春、その他は「夏燕」「秋燕」となるようです。
田植えを終えたばかりの田んぼは苗が小さいので、周りの風景を鏡のように映します。
雪型が残る山並みが田んぼに映り、その上を燕が体をひるがえしながら優美に飛び交う姿は、「日本の風景」の代表でしょう。
棚田と燕の組み合わせも気持ちの良い風景です。実際には農家の苦労は大変ですが…。
「燕が高く飛ぶと晴れ、低く飛ぶと雨」といい伝えられています。
晴れた日は、燕の餌になる虫が、上昇気流に乗って高い所を飛び、天気が悪い低気圧の日には、虫が地面近くに下りてきます。
したがって燕が飛び交う高さによって、天気がわかるということのようです。
近くの商店街に来る燕は、毎年、決まった軒先に上手に巣を作ります。
巣の中からは雛の黄色いくちばしが見え、餌をねだっています。
子育てに奮闘する親燕の姿は、ほほ笑ましく、人間との関係も身近に感じます。
この姿から、江戸時代の人たちは、燕が縁結びと、安産の象徴としても見ていました。
鳥文様の中でも、燕は鶴、雀に続いて多く登場しているので、
このことからも、燕が多くの人たちに愛されていることが解ります。
最近は雀と同様に燕も、めっきり少なくなりました。
人間の一番近くにいた鳥が少なくなるのは、農薬をはじめ、人間の側に大きな原因があるのでしょう。
寂しい限りです。余談になりますが、江戸小紋などに使う防染糊には、米ぬかを精製した物を加えます。
しかし、最近の米ぬかは稲作に農薬を使っているため、防染糊には適さないそうです。
職人さんたちは「染めの技術が進んでも、古くから使われている、質の良い材料を確保することが困難になった」と、
とても心配しています。農薬はこんなところにも影響を与えています。
柳縞に燕
芽吹き柳と燕の組み合わせで、「初燕」は春の使者として喜び迎えられていました。
前回登場した、芽吹きの「柳縞」は幾何学的でシンプルなパターンですが、小紋特有の温かみが感じられます。
さらに「燕」が加わることで、春の暖かな日射しを思わせるような、軽やかな文様になっています。
燕尽くし
燕は最高時速200キロというスピードで虫を捕らえます。空高く飛びめぐる瞬間を集めた文様です。
二つに分かれた尾羽は文様にしても解りやすく、燕の特徴を表しています。
初夏の風物詩であり、文様としても、この季節を象徴するお洒落な文様となります。
波や流水との組み合わせもあります。
燕、様々
燕の飛翔文様いろいろ。急旋回も自由自在、優れた飛行能力を持っています。
橫浜の皆さんには申し訳ありませんが、ヤクルト「スワローズ」ガンバレ!
中島みゆきは『地上の星』の歌で、
「つばめよ高い空から教えてよ 地上の星を つばめよ地上の星は今 何処にあるのだろう」と
声高々に歌い上げます。燕が大空を猛スピードで飛行する姿を見ると、現代人でも夢を託します。
22 May 2013
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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