桐
桐は5、6月頃に、淡い紫色の花を咲かせます。桐の木は成長が早く、20年もたてば立派な木になるので、
女の子が生まれると桐の苗木を植え、お嫁に行くときには、その桐で箪笥を作り嫁入り道具にするという風習があります。
実際には、切った木は何年も寝かせて、狂いが出ないようになってから使います。
江戸時代以前の箪笥は、欅などの硬く重い木で丈夫に作られていました。
しかし、江戸は火事が頻繁に起きたので、持ち出しが便利で軽い桐の箪笥が好まれました。
箪笥の横に着いている金具は、棒を挿して担ぐためです。
桐の箪笥は、火事の時に外から水をかけておけば、短時間ならば、中の着物は何ともないそうです。
日本の桐材は、木材の中で、もっとも軽く、防湿性・耐火性に優れ、材質が均一で狂いが生じにくい。
さらに、木肌は白く、木目は優美な曲線を表すので、仕上がった製品の品格を高めます。
日本の琴にも使われていますが、これは木目の美しさのためだけではなく、 桐の持っている音響効果を高める働きを利用したものです。
このように桐は他に見られない多くの特性を持っているので、使われた歴史も古く、正倉院御物や東大寺宝物にも多く見られます。
そして、桐は木材の他、樹皮は染料、葉は除虫、灰は懐炉にと、全て無駄なく使える、大変、重宝された木です。
文様から見ると、古代中国では、想像上の霊鳥とされる鳳凰が桐の木に棲み、竹の実を食すといわれていたので、
桐文様は高貴な文様として扱われていました。
日本では桐文様が天皇の衣装を飾り、菊と同様に皇室専用の文様になっていました。
足利尊氏が後醍醐天皇から下賜(かし)されて以後、武士にも使用が許され、徐々に庶民も使える文様になっていきました。
本来はこのように、品格の高い文様として使われていましたが、
江戸時代の桐文様になると、ぐっと庶民的な感覚に変化し、ユニークな桐文様が誕生しました。
型絵師のアイデアのおもしろさが桐文様を通して伝わってきます。これらの桐文様は季節に関わりなく使われました。
桐の縞
「五三の桐」を縞状に並べた文様。五三の桐とは、三枚の葉と三本の花序とで構成されているのが基本ですが、
花序に付く花が三・五・三となっているものを「五三の桐」と言います。
桐の縞
このような縞文様は。大変粋な文様であり、しかも、使い勝手が良いので、様々な縞文様が考案されました。
近づかないと何の縞か解らないのも楽しみでしょう。
扇に桐
地紙文様ともいい、扇の地紙に様々な絵柄をを入れ込んだ文様です。
優雅な文様として、能装束や、小袖などの染織品に広く使われました。
この図は、高貴な桐文様を入れた、気品のある文様になっています。
花桐 踊り桐
桐の花が風になびく様子を意匠化した文様で、「踊り桐」「なびき桐」などともいいます。
輪桐
桐の葉を円形にしたダイナミックな桐文様。すぐには「桐」とは見えないような遊び心が伝わります。
輪桐詰め
「輪桐」の文様をギッチリと配した文様で、茶人好みの文様。
角桐
桐の葉を4角形の組み合わせで構成した文様。
「輪桐」と同様に、江戸時代にはこのように大胆にデフォルメした文様が人気がありました。
松桐繋ぎ
葉の部分が「松」、花の部分が「桐」と、品格のあるもの同士の組み合わせ文様を、縞状に並べたものです。
組み合わせ文様も江戸時代の人たちの好みでした。写生的な文様でも松と桐の組合わせを見かけます。
桐は街中ではほとんど見かけない木ですが、田舎に行けば多くの農家が、家の近くに1、2本は植えています。
割と大きな木で、花も大きな塊になっているので、花の季節には遠くからでも目立ちます。
周りの若葉の色とも調和して、夏が近づくのを、知らせてくれます。
05 June 2013
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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