雨 雨龍(あまりょう)
「梅雨」と聞いただけで、うっとうしくなり、あの陰湿な気候から何とか抜け出したい気持ちになります。
しかし、梅雨は「恵みの雨」でもあります。
日本がみずみずしい緑に恵まれ、四季折々の変化が愉しめるのは、潤いをもたらす雨のおかげでしょう。
好きになれない雨でも、雨上がりの緑の新鮮さには、いつも癒やされます。
日本人の感性の繊細さを物語るように、雨の呼び名は数多く使われています。
春雨、菜種梅雨、五月雨、入梅、緑雨、村雨(むらさめ)、時雨(しぐれ)、霧雨、少雨、そして涙雨。
まだまだ、数え切れないほどあります。
最近の雨には「酸性雨」「ゲリラ豪雨」という呼び名が加わりました。何とも不気味な名称です。
地球の温暖化現象のせいか、冬なのか、春なのか。春なのか夏なのか、季節が行ったり来たり激しすぎます。体調管理が大変!
雨は心の移ろいを表すのには、最適な素材なので、小説、短歌、俳句など、文学の中には多く取り上げられています。
しかし、絵画や文様では表現が難しく、ほとんど見かけません。
文様において、雨を細い斜線で表現するようになったのは、意外にも江戸時代からです。
それ以前は、点線で表現していましたが、雨そのものを文様とすることも少なかったようです。
浮世絵では広重が雨を得意としました。「大はしあたけの夕立」「東海道五十三次 庄野」「唐崎夜雨」などがありますが、
これらの版画が印象派のゴッホに影響を与えたことは、あまりにも有名。
紫陽花(あじさい)
梅雨の季節を、ゆかしくしてくれる花は紫陽花。淡いブルーは雨によく似合います。
「七変化」といわれるように、淡い青紫から、淡紅色、赤紫などに色変化するのも、
気持ちの移ろいやすい、この時期には味わい深いものがあります。
それに比べて、最近の紫陽花の品種改良はイケマセン。派手な色調で、デコラティブな形は感性を疑います。
竹に雨
しなやかな竹に降る雨は、潤いのある風景文様になります。
このように、雨を斜線で表現するようになったのは、江戸時代以降から。
枝松に縞
松を単純化し、縞を雨に見立てた文様です。「竹に雨」図と比べると、大胆な発想と構成。これが江戸絵師の得意技。
日本は年間降雨量が多い国ですが、それだけに、長い日照りが続くと、農業などに大きなダメージを与えます。
自然には勝てないもの。雨を願うのは昔も今も神頼み。「雨乞い」の行事は至る所で行われています。
その中に、「龍神信仰」もあり、農民や漁民に広まっています。
農業や漁業にとっては、水は最も重要なものの一つであり、水の状況によって収穫は大きく左右されます。
「龍」は中国から伝わった、霊力を持つ想像上の動物です。
天に昇って雲を起こし、恵みの雨を降らせるという霊力を持った「水神」として信仰されてきました。
また、「海神」ともいわれ、大漁を祈願します。
「雨龍」は「みずち(漢字はこちら)」ともいう、龍の一種です。角のない何とも不思議な顔は「雨龍」の顔です。
「みずち」は龍の幼生とも考えられ、人目につかない岩場や、木陰の湿ったところを好むと伝えられています。
型染めのパターンとしては、なぜか、龍よりも「雨龍」の方が多く登場します。
現代風に見れば「カワイ~イ」ということでしょうか?
以前にも書きましたが、江戸という100万人都市の飲み水を確保するだけでも大変なはずですから、
雨、水は生活する中で最も重要であったはずです。
雨龍文様が多いのはそんな願いが反映されていたとも考えられます。
丸龍 雨龍
この顔が「雨龍」です。これは日本独特の丸文に意匠化した文様です。
雨龍
水神である雨龍は呼び起こした雨の中を登り、大地に恵みの雨を降らせます。
雨龍、様々
龍という割には、愛嬌のある顔立ちからか、雲や、雨などと組み合わせて小紋柄になっています。
縁起が良い文様とも考えられていたようです。
「晴耕雨読」、静かな雨音を聞きながら、ゆっくりと本を読み、物思いにふけるなどという、
情緒的な生活には、なかなかなれませんが、
最近手に入れた古い長火鉢のお湯でコーヒーを入れ、ビデオを見るのが雨の休日の楽しみです。
12 June 2013
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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