クマさんの文様がたり

傘の起源は古く、奈良時代には中国から伝来していたようです。
開いたままで、閉じることができない柄の長い傘で、日傘として使われました。
貴族や僧侶が儀式や外出時に使いましたが、お供の者が差し掛けなければなりません。
平安末期に描かれた『源氏物語絵巻』「蓬生(よもぎう)」の巻にも見られます。
一般の人たちが現代のような、つぼめられる「唐傘」を使うようになったのは江戸時代の中頃から。
江戸の傘は「下り傘」といって、大坂の大黒屋が作った「大黒傘」が原型で、
大坂で作られたものを、江戸の傘屋が売り始めたようです。
江戸で傘が作られるようになったのは茅場町界隈。川柳に「まん丸な日傘の並ぶ茅場町」という句があります。
江戸日本橋、小舟町一帯には「照降町(てりふりちょう)」という地名があり、
雨の日の傘や下駄、晴れの日の雪駄を売る店が軒を連ねていました。

傘は大変高価なもので、現在の金額で番傘が5000~7500円、蛇の目傘だと2万~3万円以上もする高級傘もあったようです。
したがって、雨の日はできるだけ外に出ないようにするか、外に出るときは頭にかぶる笠に、合羽か蓑を着て出かけていました。
唐傘は、竹や木で骨を組み、和紙を貼り、その上から防水のためにエゴマ油などを塗って作ります。
時代劇には「傘張り浪人」が出てきますが、
傘は高価なものなので、張り替え修理をすれば、それなりの値段になり内職としては良い方であったでしょう。

唐傘が一般に広がったのは、呉服商の「越後屋」が宣伝のために、
屋号と番号を大きく書いた「貸し傘」を使ったからといわれています。
「番傘」という名前は、この番号入りの傘が元です。川柳に「江戸中を越後屋にして虹がふき」とあります。
江戸中が、越後屋の貸し傘で埋まったという、繁盛ぶりを詠んだもの。
「ごふくやのはんじょうを知るにわか雨」「あいつらが貸すで売れぬとからかさ屋」、
「古傘にいつも越後が、二、三本」返さずに、古傘買いに売ってしまう者もいたようです。
他には「ひろげるとひっくりかえる傘をかし」「こうして行やれと破れ傘をかし」など、おおらかな川柳が数多く詠まれています。
傘の種類も、その素材や文様により、大黒傘、蛇の目傘、紅葉傘、奴傘など、様々な傘ができました。
最近ではカラフルな傘も増え、コンビニの安いビニール傘も大活躍です。

文様でも唐傘文様は意外と多く、当時の人たちの、あこがれの道具、ステータスシンボル的な道具であったのがわかります。
人気の道具は、すぐに文様に取り入れて楽しむのは、今も昔も同じ。

ところで、「冷やかし」の見本のように使われる「相合い傘」は、いつ頃からいわれるようになったのでしょう。
江戸時代の近松の浄瑠璃にも出てきますし、浮世絵にも見られます。
歌川國芳の「荷宝蔵壁のむだ書き」という浮世絵の中に、相合い傘の落書きが登場(三枚続きの右側の絵の右端)しています。
つまり、この落書きのパターンには250年以上の歴史があるということになります。
相合い傘は、雨に濡れないように肩寄せ合う男女の姿から、恋する人への思いが重なっていたようです。

雨に蛇の目傘

雨に蛇の目傘

「蛇の目傘」は太い輪文様が蛇の目を連想させるところから、付けられた名前です。
大胆なデザインですが、紙の取り都合からこのような文様が必然的にできたのでしょう。
歌舞伎の小道具としても使われた、人気の高い道具でした。
この図は「江戸時代のスクランブル交差点を上から見たようだ」と事務所のスタッフは申しています。

蛇の目傘

蛇の目傘

蛇の目傘で思い出すのは、なんと言っても歌舞伎『助六由縁(ゆかり)江戸桜』」で、
高々と蛇の目傘を掲げ、花道から登場する場面でしょう。
蛇の目傘の紺と白の組み合わせは、デザイン的にも優れ、印象的です。

傘

新しもの好きな江戸の人たちにとって、唐傘はなんとしても欲しい道具でした。
こうして傘が並ぶと、歌舞伎の『白波五人男』を思い出します。
「知らざあ言って聞かせやしょう…」と、唐傘をかざして見得を切ります。

春雨

春雨

桜に蛇の目傘の組み合わせで「春雨」。何とも小粋な雨文様でしょう。
「本降りになって出て行く雨宿り」。最近は「雨宿り」なんていう言葉をあまり聞かなくなりました。
いやな雨でも、雨宿りというと、思わぬ出会いを連想し、何となくロマンチックな話を期待します。

雪の唐傘

雪の唐傘

深深と降る雪が唐傘に積もる様子は、冬を代表する風情ある文様です。
歌舞伎舞踊『鷺娘』では冬景色の舞台に、玉三郎が傘を差し、鷺の精として登場します。傘には雪が…。

重ね雪輪に洋傘

重ね雪輪に洋傘

洋傘は明治初期の文明開化の商品として、日本に入ってきた物です。
雪に洋傘の組み合わせは、あまりしっくりしませんが、文明開化の象徴的なものとして洋傘を使いたかったのでしょう。

文明開化

文明開化

洋傘はペリー来航時から持ち込まれました。その傘が蝙蝠に見えたことから「蝙蝠傘」といわれるようになったようです。
日本で生産できるようになったのは、明治20年代から。
昭和30年代の高度成長期以前は、蝙蝠傘といえば黒、女の子は牡丹色の木綿傘。
30年以降になると、個性豊かなカラフルな傘が急速に増えました。
この図は、ローマ数字の柱時計とハイカラな椅子など、文明開化の憧れ品文様。

ビニール傘が、嵐の翌朝、吹きだまりに何本も重なって捨てられているのを見ると、現代の消費社会の象徴のように見えます。
せめて気に入った傘は、修理に出したいのですが、結構、修理代が高く、新品とあまり変わらないこともあります。
なんとかリサイクルしたいものです。
昭和の中頃までは「カサーイ、カサノナオシー」と傘の修理の声が聞こえていたものです。
そこで次回は江戸時代のリサイクルの話。

19 June 2013

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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