立涌(たちわく、たてわき)
雨上がりの朝、日光に暖められた水蒸気は一気に上昇します。
「立涌」は水蒸気が涌き上がり、立ち昇る様子を表現したものです。
また、陽炎(かげろう)が立ち上る揺らめきの様子、雲気が立ち上がる様子ともいわれます。
地上の気がゆらゆらと天に向かって涌き昇るという、大地の息吹を感じ取った、壮大なイメージの文様です。
文様としては波状の縦線が向かい合いシンメトリーにエンドレスで繰り返されるパターンです。
奈良時代から使用され、正倉院御物にも見られ、「雲立涌」「藤立涌」などは、
立涌文様の膨らみの中に雲、藤などを配して「有職文様」という、王朝貴族の衣装に使われた文様となっています。
立涌文様は日本独自の文様ともいわれていますが、
このすっきりとした基本形ができあがる以前は、古代ギリシャのパルメット文様や、
ペルシャ、中国の唐草文様などにも似た文様が多く見られます。
シルクロードを渡って来たパターンは、日本人の美意識の中で、独自の様式を作り出したと思われます。
「雲立涌」「菊立涌」というように、雲、波、松、菊、藤などと大胆に組み合わされて、
発展した文様は豪華な能装束の織り文様などに使われています。
大きな立涌文様は見る角度で表情が変わり、特に金箔の文様はわずかな動きにも変化をするので、
細やかな動きを見せる能には適した文様です。
立涌文様は能「高砂」で、住吉の神の意匠に使われ、神を象徴する文様となっています。
無限に続くこの形は、蒸気が立ち上るということから、吉祥的な意味合いとしても好まれ、人気の文様でした。
江戸時代になると、バリエーションのおもしろさを追求し、変化を求める中で、より一般化していきました。
染めの文様では身近な花や、動物など庶民的な柄の組み合わせが好まれ、立涌文様の種類が一気に増えたのがこの頃です。
上品で、柔らかいリズム感のある文様で、しかも文様の大きさでイメージも大きく変化するので、
使い勝手が良く、現代では帯の地紋などに多用されている文様です。
立涌
基本的な立涌文様。日本オリジナルともいわれています。
花立涌
立涌文様と花の組み合わせ。このようにおとなしい立涌は本来の意味合いである、気の上昇から離れ、
単にお洒落な地紋という感覚で使われています。
染め物、特に小紋柄では、織物の立涌文様と違い、落ち着いた雰囲気になります。
それだけに、色を変えれば年齢を問わず着られる文様です。
破れ立涌に花
このように立涌文様が部分部分で、切れているものを、文様では「破れ」といいます。
決められた形を、わざと崩すことも粋とされていました。
「破綻の美」ともいえるでしょう、江戸っ子のへそ曲がりの部分でしょうか。
「不足の美」不完全だからこそ美しいという、茶の美意識の影響もあるでしょう。
立涌文様に限らず、破れ文様は、割と多く見られます。
花立涌
同じ花立涌でも、柄が大きくなるとイメージも変わります。
雲に雨龍立涌
唐草のような雲に、立涌の線の中に雨龍(47回を見てください)を配し、
雲の中を立ち登る様子を表した、大胆な立涌文様です。
千鳥立涌
立涌の中に千鳥を入れた、可愛らしい文様。
入道雲が立ち昇り、暑い日が続きます。環境問題を考えて、打ち水などで、何とか凌ぎたいです。
しかし、アスファルトの道路では、すぐに乾いてしまい、かえって蒸し暑くなるぐらいです。
「夏は暑いのが当たり前だ!」と開き直りたいところですが、ついついエアコン頼り。
皆様どうぞ、ご自愛ください。
17 July 2013
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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