朝顔
朝顔は加賀千代女の俳句「朝顔につるべ取られて貰い水」にみるように、
江戸庶民の夏の風物詩として、多くの人たちの楽しみのひとつでした。
朝顔が中国から日本へ到来したのは、奈良時代から平安時代に遣唐使が薬用(下剤)として持ち帰ったといわれています。
中国では朝顔を「牽牛子(けんごし)」といい、生薬として用いられ、
日本では、七夕のころ咲くので、星の牽牛にちなみ「牽牛花(けんぎゅうか)」と呼ばれていました。
以前(9回)にも書きましたが、江戸時代は生活もそれなりに安定し、精神的なゆとりができて、
園芸がブームが起こりました。菊や朝顔が特に人気があったようです。
朝顔は品種改良が進み、花の種類は多く、色も紅白、瑠璃、浅黄、柿色、絞りなどあり、特に大きな花ほど売れました。
突然変異でできた、珍しい朝顔も高値で売れたようです。花の種類は1000を超していたともいわれます。
メンデルが遺伝子の法則を発見する以前から、突然変異体の朝顔を観賞価値のある物にし、栽培できるように仕立てました。
文政10(1827)年刊行の『江戸名所花暦』には、「文化3年の江戸の大火の後、下谷(したや)あたりに空き地が多くでき、
植木屋が朝顔を作るようになり、やがて人々の関心を集め、朝顔作りがブームになった」と記されています。
品種改良を重ね、黄色の朝顔まで誕生させたといわれています。
薬用として中国からもたらされた朝顔ですが、江戸時代には一気に観賞用の花へと大きく変化しました。
今でも入谷の朝顔市は有名ですが、江戸時代から朝顔の名所でした。
朝顔市は一年一度の稼ぎ時。浴衣がけの見物人が、日の出前から集まり、大変な賑わいだったようです。
朝顔売りの行商人は、五月半ばから素焼きの鉢造りにして売り始めました。
夜明け前から用意し、昼頃には売り切るように商売をしたそうです。羨ましいことに、 夏の目覚ましは朝顔売りの売り声だったようです。
文様としては、朝顔は期間が限定されるので浴衣には多く見られますが、その他の着物ではきわめて少ない文様です。
朝顔
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朝顔
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シンプルに朝顔を表現しています。小紋では朝顔文様は少ない柄です。
江戸は園芸ブーム。朝顔は江戸の人たちの間では贈り物の一つとなっていました。
縞に朝顔
竹垣に朝顔のイメージでしょう。
変わり格子に朝顔
見事に咲いた屋敷の朝顔を全て切ってしまい、 茶室に一輪の朝顔だけを活けて、秀吉を迎えたという「千利休の朝顔」の話はあまりにも有名。
朝顔散らし
ものの衰えやすいことを例え「朝顔の花一時」といわれますが、
頼りなく、はかなげなその風情は、一方で、さわやかさ、いさぎよさを表しているようにも見えます。
縞に朝顔
『源氏物語』の巻20は「朝顔」です。光源氏が朝顔を手折り、恋文を付けて朝顔の君に送る場面があります。
しかし、その朝顔というのは「桔梗」のこと、古くは「木槿(むくげ)」も朝顔といったようです。
朝に咲く美しい花を、総称してこのように呼んだようです。
東野圭吾の最新作『夢幻花(むげんばな)』の帯には、「黄色いアサガオだけは追いかけるな。」と大きく書かれています。
江戸時代には実際に、黄色いアサガオが存在していました。なぜ消えてしまったのでしょうか。
白洲正子は『花日記』(世界文化社刊)で、
朝顔などが、バイオテクノロジーの技術で、次々に新しい品種を、やみくもに作り出すことに「いのち」が感じられない、
命あるものが単なる「もの」と同列になってしまったという内容のことを書いています。
科学の進歩と生命の関係は、これからいっそう重要な課題となるでしょう。
31 July 2013
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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