瓢箪(ひょうたん)
最近は少なくなりましたが、農家の庭先には日除けもかねて、瓢箪の棚が作られていたものです。
今風にいえばグリーン・カーテンとなるでしょう。
東京国立博物館には私が大好きな久隅守景(くすみもりかげ)の『夕顔棚納涼図』があります(夕顔と瓢箪は同じ)。
瓢箪棚の下で夫婦と子どもが夕涼みをしているという何でもない光景を描いた絵ですが、
夫は透き通るような薄い着物に褌(後日談ですが、褌だけではよろしくないということで、着物を描いたということです)、
妻は腰巻き姿。この絵は色数が少なく、ほとんど墨絵のような色彩ということもあって、
しみじみとした家族の幸せを感じさせる絵です。
瓢箪は原産地のアフリカから全世界に広がった、もっとも古い栽培植物の一つとされています。
日本書紀には「ひさご」として登場しています。
古くは瓢箪の空洞の中に神霊が宿るとされ、水神や火神を鎮める祭礼用具に使用されていました。
その後は、酒器や茶道具、床飾りと珍重されてきました。
江戸時代になると庶民の暮らしのなかで、酒や水を入れる容器となったり、
二つに割って柄杓にするなど、家庭用品として使われました。
末広がりの形をしているところから、家運、財運の器としても人気がありました。
文様では葉の付いたものが、「成瓢(なりひさご)」、中の種を取り出し、くり抜いて乾かし加工したものを「瓢」と区別します。
瓢が三つで三拍(瓢)子揃って縁起が良い。六つで無病(六瓢)息災のお守りとされます。
瓢箪がいっぱい成れば、鈴なりで、「千成瓢箪」となり、子孫繁栄、家運興隆と、めでた尽くしとなります。
瓢箪文様はこのように吉祥の文様とされ、単純でユニークな形なので、瓢箪の中に様々な文様を入れるなど、
バリエーションが多く、庶民的な文様素材として、大変人気がありました。
成瓢(なりひさご)
葉や蔓が付いているものを成瓢といいます。
瓢箪
美しい飾り紐を付け華やかな文様にしました。 大きな瓢箪は表面をきれいに加工して、床飾りとしても使われていました。
瓢
この瓢には梅の絵が付いています。花見酒を楽しみに作られた文様でしょう。 あるいは、梅の香りを酒に含ませましょうということか。
瓢散らし
細かな文様ですが、小さな瓢がいっぱい詰まっています。近くで見ないとわからない文様は、それだけでも楽しい文様となります。
瓢箪鯰
禅画で見かける場面ですが、「捕まえどころがない、捕らえところのない」という意味合いのことばです。
ただでさえ捕まえにくい鯰を瓢箪で捕まえようとする矛盾をどう解決するのか、禅問答です。
この文様は瓢箪を鯰の体に見立てて目玉を二つ入れ、鯰の髭が出ています。
六瓢箪(むびょうたん)
六つの瓢箪で「無病」息災、と語呂合わせ。病気をしないように、元気にやってゆきましょう。
太閤記
秀吉の馬印の瓢箪の中に、家紋としていた「五三桐」と「菊」の文様を組み合わせた文様で「太閤記」となります。
木下藤吉郎が戦場で自分の所在を明示するために馬側に立てた標識ともいえる「馬印」が金色のふくべ「逆瓢箪」。
藤吉郎は戦いに勝つたびに、馬印の瓢箪を増やして「千成瓢箪」としたという俗説が生まれています。
以後、この「千成瓢箪」は秀吉の人気と重ねて流行したようです。
紋入り瓢
瓢箪文様はこのように、瓢箪の中に様々な文様を組み込んで愉しみました。
瓢箪には、吉祥の意味もあるので、季節に関係なく使えます。
最近は瓢箪をあまり見かけなくなりましたが、ゴーヤーや、キュウリなどのグリーン・カーテンの仲間に
ヒョウタンも入れて頂いて、大いにグリーン・カーテンを広めたいものです。
日陰を作るにはヘチマが一番良いと、物の本に書いてあります。
21 August 2013
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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