クマさんの文様がたり

葡萄

私が大好きな葡萄のおいしい季節ですが、ワインももちろん大好きです。
お店のワインコーナーは、以前に比べて種類が多くなり、しかも、値段が安くなったのはありがたいです。
残念なのは、昔ほど飲めなくなったことです。

今週は「葡萄文様」。
葡萄栽培の歴史は古く、紀元前3000年から4000年に、コーカサス地方や地中海沿岸で行われていたといわれています。
ギリシア神話の酒神ディオニュソス(バッコス)が葡萄酒の製法を考え出したとされていますが、
古代ギリシアの陶器やエジプトの壁画には葡萄栽培の絵や文様が描かれています。
葡萄は実を多く付けるところから、豊穣のシンボルであり、葡萄酒は神と人間の仲立ちをする聖なる力を持つとされていました。
このように精神的、宗教的な意味合いから、世界中に葡萄文様は広がったようです。
もっとも、果実文様はほとんどが豊穣の意味合いを持っているとされていますが、
その中でも特に石榴と葡萄は世界中でもっとも好まれた、子孫繁栄の豊穣文様です。

葡萄文様を変化させ、蔓を唐草風にした「葡萄唐草文様」はローマやギリシャからシルクロードを伝って
オリエントに渡りヘレニズム文化に取り入れられ、やがて印度に伝えられ仏教美術と融合し、中国に伝えられました。
その地域ごとのアレンジを経たのち、奈良時代に日本に伝わってきました。
我が国で製作された葡萄唐草文様では7世紀末の法隆寺金堂の天蓋や、8世紀初めの薬師寺金堂の薬師如来台座などに見られ、
天平時代にはこの葡萄唐草文様が盛んに用いられました。
その理由の一つに、葡萄は当時日本ではほとんど栽培されていなかったので、
異国情緒が漂う葡萄文様には、外国への憧れもあったのでしょう。

また、葡萄唐草文様の蔓は天地左右どの方向にも延ばすことが出来るので、
文様構成上はとても便利なこともあり、多くの工芸品の文様に重宝されています。
奈良時代にこれほど人気のあった葡萄唐草文様はなぜか、その後見られなくなります。
再び葡萄文様が姿を現すのは桃山時代頃からで、写実的な葡萄文様として登場しました。
この頃から日本でも本格的に葡萄の栽培が行われたことが影響していると思われます。
江戸時代には葡萄文様が着物や陶磁器、木工品などに幅広く普及しました。

葡萄

葡萄1

葡萄は一房にたくさんの実を付けることから、子宝に恵まれ子孫繁栄に繋がる吉祥文様として世界中で大人気。

葡萄

葡萄2

豊穣のシンボルである『葡萄文様』は古くから聖なる果実「瑞果文」として尊ばれていました。

葡萄
葡萄3a 葡萄3b

江戸から明治時代にかけての型染めの比較的写実的な葡萄文様。

葡萄棚

葡萄棚

甲州、山梨県では平安時代後期から葡萄が栽培されていたという説もありますが、
鎌倉時代から本格的に葡萄が栽培され、江戸時代には「甲州葡萄」の名声が高まったといわれています。

葡萄栗鼠

葡萄栗鼠

中国の絵画や、磁器には葡萄と栗鼠(リス)がペアで表現されているものが見られます。また東アジアの漆器にも見られます。
栗鼠のいない沖縄の漆器にも見られることからも、この文様は中国から東アジア、沖縄というルートで伝来した文様と考えられます。

葡萄栗鼠

葡萄栗鼠2

安永7(1778)年に発行された、日本最初の和更紗の指南書『佐羅紗便覧』に掲載されている文様。
更紗文様は異国情緒に満ちたものが多く、これらの文様の原点は印度から。
葡萄の房が小さいのが気になりますが、当時は今のように大きくは成らなかったのでしょう。

更紗好きとしては、インドから日本に渡ってきた、古渡り更紗の小裂を眺めながら、
ワインで秋の夜長を語り合うのが最高の楽しみです。いえ、ワインでなくても良いのですが…。

04 September 2013

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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