露芝(つゆしば)と秋草
草の葉に朝露が宿る季節。二十四節気の白露(はくろ)は、暦の上では過ぎてしまいましたが、
本格的な秋の始まりにふさわしい呼び方でしょう。
今回は「秋の七草」や「秋草文様」を取り上げます。
春の七草は一斉に芽吹き、食べられますが、秋の七草は一斉に咲くわけではなく、
ナデシコ、キキョウ、オミナエシ、フジバカマ、クズ、ハギ、ススキと
多少順番は違うかもしれませんが、長期にわたって楽しめます。
どれも可憐な花ばかりで、日本中のどこにでも、自生する山野草です。
万葉の歌人、山上憶良は
「萩の花尾花葛花なでしこの花女郎花また藤袴朝がほの花」(朝顔は現在の桔梗のこと)
「秋の野に咲きたる花を指折り(およびをり)かき数ふれば七種の花」 と詠っています。
これが「秋の七草」の始まりとか。
春や夏の華やかな花に比べ、涼やかな風の吹く山野にひっそりと咲く秋の草花は、
山上憶良でなくとも、なぜか日本人の心の琴線に触れます。
また、文様となっても日本的情緒ある文様として多くの人に愛されてきました。
平安時代の秋草文様は『鳥獣人物戯画』にも見られるように、
写実的な表現が多く、焼き物の文様もシンプルで「もののあはれ」を感じさせます。
桃山時代になると、装飾的で豪華な秋草文様になります。
秀吉の夫人、北の政所ねねが創建した京都、高台寺の蒔絵「高台寺蒔絵」の秋草文様が特に有名です。
江戸時代になると本阿弥光悦、尾形光琳に代表される琳派の華やかな秋草文様が小袖などの文様に多用されました。
しかし、小紋など一般町民が着る着物の文様は落ち着いた色合いの秋草文様になっており、
涼しげな秋を望んで、夏使用の文様ともいわれています。
秋の野
桔梗、女郎花(オミナエシ)、萩などの秋の野に咲く優しげな花は、季節の移ろいを人の想いに重ね、
無常を誘う日本人好みの文様です。
単独の花文様よりも、いくつかの草花を組み合わせて、 淡い彩りが寄り添うような優しい組み合わせ文様が、より、はかなさを漂わせます。
萩
秋の代表的な花ということで、草冠に秋で「萩」の字が当てられています。
奈良時代から観賞用に栽培されており、その優美な姿が『万葉集』『古今和歌集』にも多く詠まれています。
『万葉集』で一番多く詠われた植物、萩。華麗な小花としなやかな枝振りをもつ萩は、
移ろいゆく時の悲しさを表し、日本人好みの花であり、文様となってい親しまれてきました。
女郎花
秋の七草の一つで、黄色で可憐な小花を咲かせます。「思い草」ともいわれ、
「をみな」には若い女、愛くるしい乙女の意味があり、『万葉集』や『古今集』などに詠われています。
「女郎花咲きたる野辺を行きめぐり君を思い出たもとほり来ぬ」 大伴池主
桔梗
姿の華麗さ、優しげな色合いで多くの人たちに愛される花です。
名前の文字の中に、「吉」と「更」が含まれ「更に吉」となり、吉祥の花ともされています。
秋野の菊萩
露芝
露の玉が秋草に降りている姿をこのように呼びます。すがすがしく気持ちが良い姿です。
しかし、水玉は朝の日射しとともに消えてしまうことから、
文様としては、はかなく消える人生を暗示して、秋のもの悲しさを感じさせます。
物思う季節には繊細な曲線を主体にした「露芝文様」が、情緒的な日本人の心に触れます。
秋の七草は日本中の山野に自生していると書きましたが、それは一昔前までのこと、
現在では野生の藤袴や、桔梗は絶滅の危機に瀕しているということです。
桔梗は花屋さんにいっぱい並んでいますが、全部ビニールハウス産。
こんなことからも日本の山野が荒れていることがわかります。
25 September 2013
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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