クマさんの文様がたり

小紋の文様構成 (繋ぎ、散らし、破れ、崩し、尽くし文様)

今回は小紋の文様構成の基本を紹介しましょう。
小紋の最小の柄はだいたい5ミリから15ミリぐらいのパターンが多く、
この最小の柄をどのように連続させてゆくかで、複雑な文様にも単純な文様にもなります。
上下につなげたり、重ねたり、部分的に不規則にし、さらに大きさを変えるなどして、
小紋の文様は多種多様な文様を無限に生み出しています。
微細な部分までこだわる日本人ならではの感性がこのような文様を考案し、
さらに職人の高度な技が世界に類を見ない文様世界を作り出したのでしょう。
今回はその中でも代表的な「繋ぎ」「散らし」「破れ」「崩し」「尽くし」を紹介しましょう。

「繋ぎ」

基本になるパターンを、上下、左右。斜めに連続させて全面を覆い尽くす文様です。
基本の形には亀甲、輪、升、分銅形などがあります。

分銅写真

分銅(ふんどう)繋ぎ

分銅(ふんどう)繋ぎ

上の写真は秤に使う重り「分銅」です。秤は江戸時代は計量の象徴であり「分銅」は「宝尽くし文様」の一つです。
「分銅繋ぎ」はこの形を四方に連続する文様です。分銅の内側に花柄などを入れることもあります。
現在では地紋としても多用されています。

七宝繋ぎ

七宝繋ぎ

「輪繋ぎ」ともいわれている文様で「輪」を少し重ねながら、四方に連続する文様です。
限りなく伸びるところから縁起が良い文様とされました。「四方」から「七宝」になったといわれています。
これも「宝尽くし文様」の一つにもなっています。

工字繋ぎ(こうじつなぎ)

工字繋ぎ(こうじつなぎ)

漢字の「工」を基本にし、斜めに連続する文様。

「散らし」

花びらが風に吹かれて地面に散っているように、文様を全面に不規則に配した文様。
ただ何となく散らしたように見えますが、着物のように広いスペースで見ると、
空きのスペースに斑ができ、バランスを考えるのが意外と難しい文様構成です。
小さな部分だけで見るのではなく、常に細部と染め上がった全体を考え、見極める力が必要となります。

桜

扇散らし

扇散らし

煙管散らし

煙管散らし

「破れ」

連続文様の一部を消して、その部分に別の文様を組み入れて構成する文様。
連続性を崩したおもしろみと、より文様を複雑にして内容を豊かにすることができる文様です。

破れ垣に萩

破れ垣に萩

「崩し」

別の似た形に見立てて使う文様。
文様が複雑になり、多くの表現が生まれてくると
一つの文様の呼び名に変化をつけることで更に違った文様に見えることがあります。

紗綾形

紗綾形

梵字の卍の形を中心にしていた「卍繋ぎ」を崩した感じなので「卍崩し」、
稲妻に似ているので「雷文(らいもん)繋ぎ」「雷文崩し」とも呼ばれています。
上記の「工字繋ぎ」もほとんど同じ柄。なのに、作る人、売る人、使う人によって名称が変わることがよくありました。
江戸時代の書物などもそうですが、一つのものに対して名称の統一を図るというよりも、
わざと思い思いの呼び名をつけて楽しんでいたように見受けられます。
他に、「算木崩し」「松皮菱崩し」などがあります。

「尽くし」

同じ種類、同じ意味合いの文様を集めてグループ文様にするもので、
内容的にはよりメッセージ性が高い文様となります。
「散らし文様」の一種にもなります。

宝尽くし

宝尽くし

矢羽根尽くし

矢羽根尽くし

瓦尽くし

瓦尽くし

このコラムを書いていて、毎回感じるのですが、江戸時代から現在までどれだけの型紙が彫られ、染められていたのでしょうか。
江戸時代からの染めをしている工房では10万枚を超す型紙をストックしているといわれますし、
日本から渡って、ヨーロッパやアメリカの美術館にも1万枚以上の型紙コレクションをしている美術館がいくつもあると聞きます。
想像を絶する量の型紙が今までに彫られています。
それだけの需要があり現在まで継続している産業は、世界に誇れる文化でしょう。
しかし、現在は昔に比べれば生産量は激減していることも事実です。
この文化をより再認識し、見守ってゆきたいものです。
何よりも多くの人たちに着物に愛着を持ってもらいたいと思います。
それこそが世界に誇れる染め文化を発展させる一番の方法でしょう。

09 October 2013

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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