クマさんの文様がたり

水鳥

この季節になると、私の仕事場の近くの堀に水鳥が来ています。
その堀に隣接してレストランがあり、ランチをしながら、波に身を任せて漂う鳥の姿を見ていると、
気分がなごみ、仕事から解放されます。
時々白鷺も来ていますし、夏には一度だけカワセミを見たことがあります。
食事が終わって、仕事モードに戻すのが大変です。

「水鳥文様」は鳥の種類が曖昧ですが、一般には、鴨、雁、鷺、鴎、都鳥、千鳥、鴛鴦など
水辺に棲息する鳥をを総称し、俳句では冬の季語になります。

文様では、「都鳥」といっても、それは本当のミヤコドリか、ユリカモメか解らない場合がほとんどです。
特に小紋などの型染めの文様になると区別できません。
そこはおおらかに「ミヤコドリ」という言葉のイメージから判断しましょう。
平安時代の『伊勢物語』「九段、東下り」に書かれている
「名にし負はば いざ事とはむ宮こ鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」のミヤコドリは、ユリカモメといわれています。
都に暮らしている私の愛しい人は、元気でいるでしょうか。
都と名のつく鳥ならば、遙か彼方に住む、恋人や知人のことを尋ねたくなります。
江戸時代になって比較的穏やかな生活ができるようになったとはいえ、遠く離れた人に会いに行くことは容易ではありません。
雁や燕などを登場させた浮世絵も、渡り鳥に遠方のことを思う心を重ねたものが多く見られます。

水鳥
水鳥1 水鳥2

群れをなした水鳥は波に任せてのんびり休んでいるように見えます。

水鳥

水鳥

浮寝鳥(うきねどり)

浮寝鳥(うきねどり)

鴨や雁は毎年、冬に渡って来て湖沼や川などの水辺で一冬を過ごします。
水面を覆うように群れをなした水鳥がそれぞれ、顔を羽に埋めて、うつらうつらと眠っています。
俳句では「浮寝鳥」は冬の季語です。

龍安寺(りょうあんじ)

龍安寺(りょうあんじ)

都名所図会』に「池の面には水鳥むれあつまり、龍安寺の鴛鴦とて名に高し」とあります。
寺の南側に鏡容池という広い池ががあり、古くは「おしどり池」といわれていました。それほど有名だったようです。
この池に行くのには拝観料がいらないので、龍安寺の近くに行った時には池の周囲を散策するのをおすすめです。

都鳥(みやこどり)

都鳥(みやこどり)

話がそれますが、タイトルが「都鳥」という文様がありました。
この模様を見てから2年間、タイトルの意味が全くわからなかったのですが、
3年目に図書館で古い本を見て、答えを見つけました。なんと子どもの玩具です。
木の板を薄くした経木(きょうぎ)で作られています。
首のように見える部分に、紐を付け振り回すと羽のように見える部分が回転し、
鳥が飛んでいるように見えます。江戸では「都鳥売り」の行商人もいたようです。

話がそれたので、さらに、こんな話はどうでしょうか。
「水鳥」と書いて「すいちょう」と読み、スイがサンズイ、チョウが鳥=酉、合体させて「酒」に転じます。
川崎市には「水鳥(すいちょう)の祭り」という行事が残っています。
酒の呑み比べ合戦だそうです。江戸時代初期の仮名草紙『水鳥記』に書かれている故事を再現した祭りです。
素直に"酒呑み合戦"といわないところが、何とも愛おしい感じです。

東京の真ん中の小さな堀でも、冬の到来を感じることが出来ます。
暖かい太陽が当たるテラスで浮き寝鳥を見ながらのランチが楽しみです。お近くに来られた時にはご案内いたしましょう。

20 November 2013

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

バックナンバー
vol.06913 November 2013
vol.068秋の収穫 大根06 November 2013
vol.067唐草30 October 2013
vol.066鐙(あぶみ) 武蔵野23 October 2013
vol.065苧環(おだまき) 糸巻き16 October 2013
vol.064小紋の文様構成
(繋ぎ、散らし、破れ、崩し、尽くし文様)
09 October 2013
vol.063小紋三役02 October 2013
vol.062露芝(つゆしば)と秋草25 September 2013
vol.061月と兎18 September 2013
vol.060茄子11 September 2013
vol.059葡萄04 September 2013
vol.058撫子 ナデシコ28 August 2013
vol.057瓢箪(ひょうたん)21 August 2013
vol.056麻の葉14 August 2013
vol.055蝙蝠07 August 2013
vol.054朝顔31 July 2013
vol.053鉄線24 July 2013
vol.052立涌(たちわく、たてわき)17 July 2013
vol.051浴衣10 July 2013
vol.050七夕 星03 July 2013
vol.049雑巾 江戸のリサイクル26 June 2013
vol.04819 June 2013
vol.047雨 雨龍(あまりょう)12 June 2013
vol.04605 June 2013
vol.04529 May 2013
vol.04422 May 2013
vol.04315 May 2013
vol.042江戸の子どもたちと玩具文様08 May 2013
vol.041端午の節句 菖蒲文様01 May 2013
vol.040貝文様 潮干狩り24 April 2013
vol.039向かい文様  江戸時代の恋愛観17 April 2013
vol.03810 April 2013
vol.037霞か雲か03 April 2013
vol.036桜の花見27 March 2013
vol.035「花」といえば桜20 March 2013
vol.034春野13 March 2013
vol.033蘭、四君子06 March 2013
vol.032桃の節句27 February 2013
vol.031天神様と梅20 February 2013
vol.03013 February 2013
vol.029竹 - 206 February 2013
vol.028竹 - 130 January 2013
vol.02723 January 2013
vol.026蓬莱山と松16 January 2013
vol.025門松09 January 2013
vol.024宝尽くし03 January 2013
vol.023留守文様26 December 2012
vol.02219 December 2012
vol.021悟り絵12 December 2012
vol.020吹き寄せ05 December 2012
vol.019銀杏28 November 2012
vol.018紅葉狩り21 November 2012
vol.01714 November 2012
vol.016道具07 November 2012
vol.015人物文様31 October 2012
vol.014実りの秋24 October 2012
vol.01317 October 2012
vol.012草双紙と文具10 October 2012
vol.011小紋-2 型地紙と型彫りの技法03 October 2012
vol.010小紋-1 江戸小紋26 September 2012
vol.009江戸のガーデニングブーム19 September 2012
vol.008重陽の節句12 September 2012
vol.00705 September 2012
vol.006文字小紋29 August 2012
vol.005蜻蛉(とんぼ)22 August 2012
vol.004団扇15 August 2012
vol.003波文様五題08 August 2012
vol.002『波紋集』01 August 2012
vol.001梅鶴に松葉(うめづるにまつば)25 July 2012