楽器
今年も奈良の「正倉院展」に行ってきました。相変わらずの大人気でゆっくり見られないのが残念ですが、
天平時代の美術工芸品を直に見られるチャンスは少ないので毎回の展示を楽しみにしています。
今年は日本固有の和琴(わごん)が出品されていました。
花卉文(かきもん)の螺鈿や、金銀泥で描かれた鹿、尾長鶏、麒麟などの動物文様の装飾が見事でした。
材料、技術ともに現在では再現するのが困難といわれていますが、
奈良時代は国家がこうした工芸品を作ることに大きな援助をしていたのでしょう。
先日、6世紀に作られたという「琴を弾く男」という埴輪を見ました。
群馬県の前橋市朝倉出土の埴輪ですが、椅子に座った男性が膝の上の4弦と思われる琴を弾いています。
『日本書紀』には神事の際には琴が弾かれたことが書かれているので、その歴史の古さが解ります。
「琴を弾く」埴輪は他の地方でも出土しています。
和琴は、現在のように音楽を楽しむために作られたのではなく、
仏様に音楽をお供えする楽器で、極楽浄土に響く荘厳な調べを奏でるたに作られたものです。
もちろん、他の楽器、笛、琵琶なども同様です。
楽器の歴史は古く、人間が文字をもつ以前の共同体では結束を確認するまつりごとに、楽器は欠かせない物でした。
特に打楽器は原始時代から存在していました。
木や石ををたたいて情報を伝達したり、リズムを作って踊ったりすることは、人間の生活に密着した行為であり、
初歩的とはいえ、こうした打楽器は必要な道具のひとつであったともいえます。
やがてハープのような弦楽器が発明され、笛などの木管楽器が作られというように、
人類の進化とともに楽器もより多く、複雑な物が出来てゆきました。
日本の伝統的な音楽に用いられる楽器は「和楽器」といわれていいますが、ほとんどが西域や中国からの渡来です。
そして長い歴史の中で日本人好みの音色や、形に変え、日本独自の楽器を作り出してきました。
江戸時代になると、楽器の使われ方も多様になり、以前のような宗教的な使われ方のほかに、
庶民の年中行事や娯楽としての音楽を演奏するための道具にもなってきました。
特に三味線や太鼓、笛などは、なくてはならない楽器でした。
鎮守様の村祭り、花見、祝い事にも必ず様々な楽器の伴奏が入り、賑やかになりました。
歌舞伎では太鼓や笛などを「鳴り物」といい、賑やかにはやし立てる時の景気づけや、
舞台の雰囲気を盛り上げるために音響効果を考えて使われています。
文様の中に「楽器」が使われる場合は、音の表現が出来ないので、古典楽器の形の美しさを表現しました。
典雅の形に品格が有り、王朝趣味の晴れ着文様として使われるのが主流でしたが、
江戸時代には娯楽性を求め、気軽に使うケースも見られます。
琴柱(ことじ)に桜
琴柱は弦を支える二本足の駒のこと。
小さなものですが、形のおもしろさと琴の音を連想させる形なので、人気の文様素材でした。
後には、形のおもしろさを強調して、大胆な琴柱文様が出来てきました。
この文様は大小の琴柱と桜の組み合わせで、緋毛氈の上での花見の宴を連想させる優雅な文様となっています。
花に琴
将軍吉宗のお声掛かりで花見の名所が作られると、一気に花見の客が増え、
満開の桜の下では緋毛氈や花ござを敷き、琴や三味線に合わせて踊ったり、酒や花見弁当を楽しみました。
撥に駒
三味線の撥と駒の文様。
「駒」は糸(弦)を三味線本体に接触しないところで保持し、糸の振動を効率良く共鳴させる部品。
材質は、象牙、鼈甲、竹、紅木など様々あり、音色も変えられます。
三味線は歌舞伎、浄瑠璃、新内など多くの芸能に使われています。
江戸時代には一般の人たちにも歌舞音曲の習い事が盛んになり、 三味線は比較的簡単に演奏できることから普及したようです。
鼓(つづみ)
鼓はインドで発生し、中国に渡り奈良時代に日本に伝わったものですが、 砂時計のような形になったのは日本特有のものです。
神楽、能楽、白拍子などに使われる主要な楽器。
この図は鼓の革の部分を重ねた文様ですが、鼓の調べが連想できる文様として人気がありました。
笛尽くし
笙、唐人笛、尺八、龍笛(りゅうてき)などの笛尽くし文様。雅楽で使われている笛も加わっています。
竹製の楽器は割れを防ぐために桜の皮の紐を巻き、漆を塗っています。
唐人笛(とうじんぶえ)
中国から伝わった竪笛。「ちゃるめら」というラッパのこと。大きな音が出るので、芸人や行商人が客寄せに使いました。
調子笛(ちょうしぶえ)
弦楽器の調弦に使う小さな笛です。形がおもしろいので文様として使われたのでしょう。
法螺貝
山伏は修行時に法螺貝を合図に使います。武将は戦陣で合戦における戦意高揚のために法螺貝を吹きました。
三番叟
三番叟は祝儀舞踊として芝居の幕開けに舞い、天下太平、五穀豊穣を祈ります。
舞手が使う剣烏帽子と扇と鈴の文様。鈴には飾り紐がついています。 鈴は超常的な力を呼び起こすための楽器と信じられていました。
音を文様に表現するのは至難の業、絵師は連続文様や、散らし文様を利用し、
リズミカルに形から音を連想できるよう苦心しているのが解ります。
27 November 2013
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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