千鳥
千鳥は『万葉集』にも詠まれているように、古来、詩歌に多く登場しています。
冬の夜の心細さ、侘びしさを笛のように哀調を帯びた鳴き声に重ね、冬の詩歌の代表的なアイテムになっています。
鳴き声はピッピッピと高い音で、切なく哀感を誘い、日本人の感傷的な心に響くようです。
童謡の『浜千鳥』は
「青い月夜の浜辺には 親を探して鳴く鳥が 波の国から生まれ出る 濡れた翼の銀の色」と歌い、
波間を飛び交う姿に、物の哀れを重ねています。
そのせいか、千鳥の名前は鳥の中でも特に多く、
波千鳥、浜千鳥、磯千鳥、川千鳥、群れ千鳥、遠千鳥、友千鳥、夕千鳥、小夜(さよ)千鳥、はぐれ千鳥などなど、
それぞれに少しずつ違ったイメージをもっています。
しかし、最近では実際の千鳥を見た人は意外と少ないのではないでしょうか。
でも、江戸時代には東京湾の干潟にも餌を求めて渡って来ていたように、人々の暮らしの身近で見られた鳥でした。
「千鳥」とは「多くの鳥」という意味合いでしたが、後には水辺に群れ飛ぶ小鳥たちを総称していたようです。
そして「千鳥文様」では群れて波間を飛び交う様子を表したものが多く見られます。
桃山時代以前の着物の柄に見られる千鳥文様は哀感を表現したものがほとんどですが、
江戸時代になると千鳥文様はパターン化され、明るくリズミカルな文様へと大きく変化してゆきます。
文様の名称では波千鳥、流水千鳥、千鳥格子、千鳥繋ぎ、千鳥の鳥襷、など、多くあります。
最近の「かわいいもの好き」もあってか、鳥の中でも特に可愛い千鳥文様は現在でも人気を維持しています。
網干風景(あぼしふうけい)
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投網を干している水辺風景文様。こういった水辺文様には千鳥が付きものでした。
小さな千鳥を入れるだけで、情感ある文様に変化します。
光琳千鳥
江戸時代の千鳥文様はそれまでの哀愁をおびた文様とは別に、
尾形光琳風のデザイン化された、単純な千鳥文様が流行しました。
光琳が描いたというよりは「琳派」風の文様という意味合いの名称です。
菱形に目と足(この図では足も省略)を付けただけのパターン化された文様は単純な形ゆえ、
バリエーションが多く、遊び心あふれる楽しく、可愛らしい文様となり、現在でも人気があります。
光琳も千鳥を好み、工芸品の絵付けも多数あります。
波千鳥
2図共に「青海波」と千鳥の組み合わせ文様。
波と千鳥のペアは当時の女性や子どもたちに人気の文様でした。
波千鳥
パターン化された千鳥文様の輪郭線の内側に「青海波」の文様を組み込んだ「波千鳥」。
千鳥の鳥襷(とりだすき)
最もシンプルな千鳥形を襷状に連続させた文様です。点は千鳥の目になり、向かい合っています。
これより単純化できない愛くるしい文様で、デザイン性の高い文様構成です。
現代では似た文様に千鳥格子があります。ハウンドトゥース・チェックともいいます。
分銅に千鳥繋ぎ
「分銅繋ぎ」(別名「千鳥繋ぎ」ともいいます)に千鳥を散らした文様。
千鳥というと,氷屋さんの軒下にぶら下がっている小さな旗を思い出す人もいるでしょう。
真っ赤な「氷」という文字の下に青い波があり上の方に千鳥が飛んでいます。
「千鳥」は俳句の季語で冬。
日本人には「波千鳥」という文様が定着しているので、涼しさを求めて、冬の鳥を「氷」に組ませたのでしょう。
ということで、日本人は夏でも冬でも可愛らしい千鳥が好きなようです。
おじさんは「かわいきゃ良いのか」と文句タラタラ。
11 December 2013
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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