クマさんの文様がたり

正月飾り 熨斗(のし)

明けましておめでとうございます。
このコラムを書き始めてから2度目の正月を迎えることができました。

今回は新年を迎える正月飾りと、お祝い事に使う「熨斗」の文様。
江戸時代、毎年12月17日と18日は浅草寺の年の市です。
江戸一円から正月の縁起物や七五三縄(しめなわ)や、次の年に使う台所用品などを買い求める客で溢れます。
深川八幡宮、神田明神、芝明神も賑わっていたようです。
江戸時代はそれ以前に比べれば、はるかに安定した時代が続いていたとはいえ、
家族の健康や繁栄には不安が多く、世の中が穏やかになってほしいという願いは強く、
頼れるものはすべて、八百万の神や仏様に祈願しました。
当然、年の始まりである正月の飾りは大切なもの、大奮発して求めたり、心を込めて立派な飾りを作りました。

七五三縄(しめなわ)

七五三縄

「注連縄」とも書きます。江戸では「シメ」といったようです。
一般的には神前や神事の場に不浄なものが入るのを避けるために張る縄のこと。
三筋、五筋、七筋と綯(な)うものですが、その間に紙垂(しで)をさげます。
この図では子孫繁栄を願う羊歯(しだ)を下げています。
羊歯は「裏白」ともいい、葉の裏側が白っぽく、胞子を多く付け、表側は冬でも緑を保っているところから、
子孫繁栄を永遠に祈るという願いが込められています。

懸鯛(かけだい)

懸鯛(かけだい)

鯛は「めでたい」に通じ、縁起の良い魚とされました。
正月には干鯛や塩鯛2匹を腹合わせにして、藁縄などで結び、神棚やかまどの上などに飾る風習があります。

餅花(もちばな)

餅花(もちばな)

農家では小正月に、小さく丸めた紅白の餅を瑞木や柳の枝に刺します。
稲穂が頭を下げたように見えるところから、作物の豊かな実りを表し、これを神棚に供えて五穀豊穣を祈ります。
また、同じように繭の形の団子「繭玉」をつけて、養蚕の無事を祈願する地方もあります。

十日戎(とうかえびす)

十日戎(とうかえびす)

正月10日に行われる初恵比寿のこと。兵庫県西宮の恵比寿神社が名高く、
境内では、はぜぶくろ、ぜにかます、束ね熨斗、小判、烏帽子などの
宝物をかたどった縁起物を笹につけた「恵比寿飾り」の市が立ちます。

熨斗

祝いの儀式の際、進物として使われた肴は、鮑の肉を桂剥きにし、引き伸ばして干した鮑でした。
これを「熨斗鮑」といいます。
後に、この形から紙で作られた祝儀用の飾りが考案され、「熨斗文様」は吉祥文様として大人気となりました。
大きな熨斗文様は歌舞伎衣装にもなり、カラフルな熨斗文様は人目を引くのに大いに活躍し、
小さな熨斗文様は江戸小紋などの文様素材となって、品格のある文様として喜ばれました。

熨斗

熨斗

進物に添える飾りですが、「折形」ともいわれる、和紙を折って作った熨斗飾りです。

束ね熨斗

束ね熨斗

鮑から作った慶事用の肴「熨斗」を意匠化した文様。
この図は、束ねた熨斗が跳ね上がった様に描かれた「暴れ熨斗」ともいわれる文様です。
威勢が良く、めでたい文様なので、歌舞伎衣装や工芸品の文様に多用されています。

折形

折形

和紙を折って作る熨斗形は用途や流儀によって様々に変化します。
この図はそれらを集めた、めでたい「熨斗尽くし」文様です。
現在の「折り紙」遊びの起源です。

紋入り蝶熨斗

紋入り蝶熨斗

熨斗を蝶に見立て,その中に小紋柄を入れた文様です。
現代ではしつこすぎる文様ですが、当時は人気の柄でした。

飾り紐(かざりひも)

飾り紐(かざりひも)

「一筆書きの」ように一本の紐を蝶の形にした飾り文様です。祝い物の紐結びからイメージされた文様です。
「結び目」には神が宿るともいわれ、良縁祈願のめでたい文様です。

穏やかな一年であってほしいですが、今年も変化の多い年になりそうです。
良い方の変化が多いことを神頼み。
今年もよろしくお付き合いください。

01 January 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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