クマさんの文様がたり

鶴と共に慶事文様には欠かせないのが亀。
長生きの象徴として動物文様の中でも、最も数が多く登場するもののひとつです。
謡曲の「鶴亀」は、天下太平、国家の長久を祈念し、祝福するというめでたい内容ですが、
鶴と亀が舞って長寿を祝うと、殿上人たちも舞って祝賀の場を盛り上げます。
中国の天文思想では東西南北を青龍、白虎、朱雀、玄武の四神が守るとして、日本に伝えられました。
その中の「玄武」は亀に蛇が巻き付いた形をした北方を守る神です。
奈良県明日香村で発見された、高松塚古墳やキトラ古墳の
壁面に描かれていた玄武の像が記憶に残っている方も多いでしょう。
また、神仙思想では、亀は天を支え物を背負うとされ、
不老不死の仙人が住む蓬莱山は、大きな亀の背中に乗り海に浮かんでいます。
このように中国では、亀は神の使いとされています。

仏教伝来と共に伝わったと言われている「放生(ほうじょう)」という考えがあります。
捕らわれた魚や鳥獣を野に放し、殺生をを戒める儀式です。
江戸時代には神社など参拝客を相手に、放生する生き物を売る商売がありました。
「放し鰻」「放し亀」「放し鳥」などがあり、亀は腹から背に掛けて、藁縄で縛られて売られていました。
でも放された亀はまた、捕らわれ、縛られて売られます。

日本の亀文様では尻尾のように尾に藻をつけた亀が、蓑(みの)をつけたように見えることから
「蓑亀(みのがめ)」と呼ばれ、亀の中でも長寿亀として吉祥文の代表とされています。
しかし、江戸時代になると亀文様は霊獣というような権威が薄くなり、
ただ長寿繁栄のおめでたい文様といった扱いです。
そして、子亀のような可愛らしい亀文様が登場し、大変もてはやされるようになりました。
文様では、亀を刺繍をした豪華なものは婚礼衣装に、藍染めになったり、絵絣になった大きな鶴亀は布団地に、
小さな亀文様は江戸小紋の柄などになって、いつでも,どこでも多くの人たちに愛されてきました。

流水に蓑亀

流水に蓑亀

鶴は千年、亀は万年生きるという、中国の故事から長寿の象徴である亀ですが、なかでも蓑亀は貫禄があります。
特に鋭い顔に特徴があります。竜宮城へ行った浦島太郎が乗っていたのが蓑亀。

蓑亀

蓑亀

甲羅の後ろに海藻の尻尾をつけた亀は「蓑亀」。「宝亀」ともいわれます。

亀散らし

亀散らし

子亀のイメージでしょうか。

銭亀 流水に亀
銭亀 流水に亀
丸い甲羅が江戸時代の硬貨に似ているところから、こう呼ばれています。最も単純な亀文様ですが、こういった可愛らしい文様は当時から愛されていました。子孫繁栄の意味も込められていたのでしょう。 流れに身を任せる亀たち。吉祥文様というよりも、水辺風景といった感じの亀文様。

流水に子亀

流水に子亀

こちらもシンプルな子亀文様。波間に子亀が見えます。中国の鋭い顔の亀とは違って親しみのある亀文様。

志ん生落語「鶴亀」は、富くじで大当たりした金を瓶(亀)に入れると、
長屋の者が首を鶴のように長くして、くちばしを入れに来ます。
江戸小咄「万年目」は、ある男が「縁日で買った亀が、次の日の朝方になって死んじゃった」と文句を言いに行くと、
店の親父の言い訳は「ああー、こりゃ、ちょうど夕べが万年目に当たったんだ」。

08 January 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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