クマさんの文様がたり

扇 扇子

「扇」という言葉は「あふぐ」から。扇は手に持って風を送る物の総称で、「団扇」(第4回)もこの仲間です。
「扇子」は紙でつなげられた数本の骨組みを要で固定した、たたみ式扇ということです。
紙を折りたたんで作る扇子は日本産。
また、檜の薄板を重ねて作る「檜扇(ひおうぎ)」は平安時代から作られていました。
当時の扇はあおぐこと以外に、儀礼や贈答、言葉を伝える道具として用いられていました。
扇に和歌を書いておくったり、花などを添えて贈ったことなどが、『源氏物語』や多くの文学作品に書かれています。

扇子の形は、なんといっても「末広がり」に通じ、発展、繁栄を意味し、
縁起の良い物とされ、吉祥の文様として多用されています。扇子のことを「末広」とも呼んでいました。
扇子は風を送るだけでなく、礼儀として笑う時に、歯が見えないように口の前を覆うときなどにも使います。
扇子はお洒落アイテムとしての用途が大きく、外出時には常に携帯していました。
そして、芸能では能楽や狂言の小道具として欠かせませんし、
落語では、そばを食べる時の箸に、酒を注ぐ銚子に、煙管や刀、遠眼鏡などに見立てて大活躍。
棋士が将棋盤に向かって扇子を開け閉めする時の「ピシッ」という音からは緊張感が伝わります。

文様としては扇子を開いても閉じても、連続しても、散らしてもおもしろい構成ができるので、
バリエーションが多く見られます。
さらに丸く連続することもでき、家紋には三つ、五つの扇子で円を構成しているものがあります。

分銅繋ぎ地に扇尽くし

分銅繋ぎ地に扇尽くし

団扇と扇子の広げたところと、半開きのもの。団扇の絵柄がそれぞれ違い、画中画として楽しめます。

扇散らし

扇散らし

「末広」ともいわれる扇子を開いたり、閉じたりしたものを配した文様で、
日本舞踊の舞姿を想像できる文様となっています。

扇面重ね

扇面重ね

広げた扇子を重ねた文様ですが、折り山を強調し、リズミカルな文様になっています。
舞扇の動きを連想できます。

霰地に梅鉢扇

霰地に梅鉢扇

霰とは地の部分の点。染めの職人さんが使った業界用語からきています。
「点」というより「霰」と言ったほうが情緒的。扇子の文様は「梅鉢」。
末広と梅で、めでたさが重なった吉祥文様となります。

扇に桜

扇に桜

桜の下の宴会なのでしょう。江戸時代は花見が盛んでした(36回「桜の花見」を覗いてください)。

扇

色や絵柄の変化も多く好みに合わせて選べることから、和装のお洒落アイテムとしては欠かせません。
この図は一見わかりづらいかもしれませが、扇子を閉じて斜め格子に並べた文様。小粋な「変わり格子」文様です。

三つ組扇 扇の繋ぎ
三つ組扇 扇の繋ぎ

三つの扇を丸くつなげた文様。「三つ組扇」は家紋にもなっています。
扇の繋ぎは、扇面を縞状につないだ文様。

地紙

地紙

夏になると「地紙売り」という扇子に貼る紙の部分だけ売り歩く商売が繁盛していました。
なぜか、地紙売りは色男がするものと相場が決まっていたようで、
女性相手に役者の声色や、物まねをして客を集めたそうです。

檜扇

檜扇

檜の薄板を数枚重ねて作ったのが「檜扇」。
文様が無いものは男用、女性は胡粉や金銀泥で倭絵(やまとえ)という日本的な絵が描かれ、
五色の糸を長く垂らします。

江戸時代、「扇箱買い」なる商売がありました。
今でいう年賀のお年玉ですが、箱入りの扇子「扇箱」を贈る習慣があったのです。
しかし、箱の中身は粗雑な扇子や、竹ひごだけという代物でした。
誰も箱を開けたりせず、ただ玄関先にその箱を積み上げて客の多さを誇り、見栄を張っていました。
正月も二十日も過ぎれば不用になった「お払い扇箱」を買い集める業者が回って来ます。
安く買い取って来年の正月に再利用、一年先をあてにする気の長い話です。
古川柳に「売る内にもう買いに来る扇箱」があります。

22 January 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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