クマさんの文様がたり

三番叟

正月気分も遠のいてしまいましたが、今回もおめでたい文様「三番叟(さんばそう)」です。
といっても、現代の生活ぶりでは三番叟はあまり見かけなくなってしまいました。
江戸時代は地方を回る旅芸人が三番叟を踊っていましたし、宿賃を払う代わりに三番叟を教えたこともあったようで、
それぞれの地方で身近に三番叟の舞が見られたようです。

本来、三番叟は日本の伝統芸能であり、能の『翁(おきな)』(『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』)で
『千載(せんざい)の舞』、『翁の舞』に続いて狂言方が三番目に行う舞です。
三番叟』の舞は前半の「揉(もみ)之段」、後半「鈴之段」の二段からできています。
激しいお囃子と共に、体を大きく反らしたり、飛び跳ねながら袖を振り回すなど、豪快かつ躍動感にあふれ、
また、滑稽な動作もあり独特な舞といえるでしょう。
舞のなかで、力強く踏む足拍子は農地を地固めし、
鈴を鳴らしながら種まきを思わせる所作は、豊作祈願を表すとも言われています。
歌舞伎では顔見世の三日間、正月の仕初め(しぞめ)、こけら落としの祝儀のために舞われています。
最初の演目ということで、「物事の始まり」を意味する代名詞ともなっています。
このように、芝居の幕開けに、祝福と清めのために舞うことの多い三番叟は、極めて神聖な舞として、
現在でも日本各地で演じられる神楽、文楽などの人形芝居、民俗芸能のなかにも残されています。
最近では地方の子ども歌舞伎で演じられているようなので、機会を見つけて出かけたいものです。

三番叟

三番叟

鈴に付けた紐や、烏帽子の紐が、リズミカルで、三番叟の動きの激しい舞台を連想させる文様となっています。

三番叟

三番叟

三番叟

三番叟文様は天下太平、国土安穏、五穀豊穣をことほぐ文様。
縁起の良い吉祥の文様のひとつとして人気の文様です。

三番叟

三番叟

三番叟の舞に用いる、剣烏帽子(けんえぼし)、扇、鈴、面箱の文様。
『三番叟』の前半、揉之段は面を着けずに踊りますが、鈴之段では黒式尉(こくしきじょう)という翁面を着けます。

三番叟

三番叟

三番叟を舞う時に使用する剣烏帽子と中啓(ちゅうけい)という扇を組み合わせた文様。
剣烏帽子は字のごとく頂が剣先形になっている、三番叟用の烏帽子。
常は黒ですが、金色の縞で赤い丸を付けたものもあります。
中啓は能楽で使用する半開きの扇のことで、末の開いたままの状態を維持し、儀礼の道具にも使われます。

三番叟売り

三番叟売り

「さんばそう さんばそう なんきん あやつり」 と売り声をかけます。

格調高い『寿式三番叟』から『雛鶴三番叟』、『舌出し三番叟』などなど多くの種類の三番叟が生まれました。
そのひとつ『操り三番叟』がもととなって、おもちゃができました。
寛文から延宝(1661~81年)のころ、京都の人形遣い山本角太夫が、三番叟南京操りを人形振りで演じ、
それが江戸でも評判になりました。
やがて、それにあやかって「糸繰り人形三番叟」のおもちゃが作られ、
子どもたちを相手に江戸中を売り歩く商売までありました。
でんでん太鼓や、独楽、ヨーヨーなど、様々なおもちゃも、売り声を工夫して売り歩いていました。
こういった商売が成り立っていたということは、子どもに対する大人の愛情の深さと共に、
当時の生活の落ち着きぶりも解るというもの。
そして、昔の玩具は昨今のモバイルゲームとは違い、子どもたちが自ら工夫し、体を使って遊ぶようにできています。

29 January 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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