クマさんの文様がたり

海老・蟹

「えび」は本来「蝦」と書きますが、「海老」は長い髭、腰の曲がった姿から
海の翁、海の老人という意味合いで、この字が当てられるようになったようです。
「海の翁」とも呼ばれることから海老は長寿の象徴でもあります。
しかし、縁起が良いとはいえ、井原西鶴『世間胸算用』は「伊勢海老は春のもみぢ」といい、
大名たちがご祝儀に使うので、伊勢海老が高騰して困った様子が書かれています。とても庶民の口には入りません。
せめて、家紋や、工芸品の海老文様で、縁起をいただきましょう、ということでしょう。

家紋のなかに「海老紋」があります。
赤く硬い殻を身にまとった海老の姿は、甲冑姿の勇ましい武士にイメージを重ねて武士たちに愛用されました。
蟹も同じように、鋏を持ち上げている姿が、武士が刀を持つ姿に似ているとして、人気の柄でした。
江戸の町衆の間で浴衣や大漁袢纏、羽裏などに使われた大胆な海老、蟹文様は江戸っ子気質の表現でしょうか。
派手好きな男たちの羽織裏から、チラと真っ赤な海老の姿が見え隠れするのは粋というもの。
海老文様は色といい、形といい人目を引きつけるには絶好のアイテムでした。

また、海老文様で印象的なものは歌舞伎十八番『毛抜』で
粂寺弾正(くめでらだんじょう)役の市川團十郎が着る「壽の字海老」です。
両肩と裾に朱赤の大きな「壽」の字を海老の形にアレンジした文様は金の縁取りがあり、
さらに強烈な印象を与えます。
大胆な文様の多い歌舞伎衣装の中でも、特にインパクトが強い文様であり、文字のデザインとしても出色のアイディアでしょう。

家紋

向かい海老 壽の字海老 毛抜

左から、「向かい海老」、「壽の字海老」と切手になった「毛抜」。肩に海老が少し見えます。

海老

海老

波に海老

波に海老

海藻に海老丸

海藻に海老丸

3点共に男性好みの豪快な文様です。

海老に霰

海老に霰

繊細な小紋柄の海老文様には、力強さはありませんが、リズム感のあるおもしろい文様となり、
しかも縁起が良いので町衆の間では人気がありました。

海老

海老

海老丸 流水に海老 破れ亀甲に海老
海老丸 流水に海老 破れ亀甲に海老

蟹

この蟹文様は可愛らしい小紋柄。
これだけ可愛いと、武士に好かれるというよりも、町民たちの間でもてはやされた文様でしょう。

悲しいことに最近は、海老というと、偽装表示のことが頭に浮かんでしまします。
本来の味がわからずに、出されたものはすべてメニュー表示のもの、と信じ込んでいました。
見分けることができないこちらが悪いのか、できないのなら分相応のものを食べるべきか。
地の食材を旬の時に食べるのが、味も良いし安心もできます。
そういえば、かつては東京湾の芝浦で中型の海老が大量に水揚げされ「芝海老」と呼ばれ、庶民の口にも入りました。
今では江戸前の海老も安くはありません。
理由はないのですが、宮沢賢治の『注文の多い料理店』を思い出しました。

05 February 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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