クマさんの文様がたり

役者文様

江戸幕府が始まる頃(1603年)、出雲阿国(いずものおくに)という女芸人が
「かぶき踊り」を京都で興行したことが「歌舞伎」の始まりといわれています。
まもなく江戸でも披露され、両方が競い合うように歌舞伎小屋を建てたようです。

江戸時代の最大の娯楽は芝居、歌舞伎であったでしょう。
当時の芝居小屋には「大芝居(おおしばい)」と「小芝居(こしばい)」がありました。
大芝居は江戸三座と呼ばれ、幕府に認められた常設の芝居小屋で、
入り口の上にその印である櫓を上げることができました。
三座は「中村座」「市村座」「森田座」。三階建てで、収容人数は600人を超えたといわれています。
一方、小芝居は寺の境内や、盛り場で簡易な劇場を作り、100日限りの興業が許されました。
小芝居の役者は大芝居の舞台には立てないなど、両者ははっきりと区別されていたようです。
当時の歌舞伎は明け六つ(午前6時頃)から暮れ六つ(午後6時頃)まで行われるほど、
長時間の観劇となりました。
芝居茶屋を通せば上等な席で、飲食のサービスもあり、
舞台が終わった後には、贔屓の役者を招いて宴会ができました。
もっとも、こういった芝居見物は高額な費用がかかるので、大家の旦那衆ぐらいしかできなかったでしょう。
一般席は一階の土間と呼ばれる桟敷席。

そんななか、歌舞伎役者の人気はうなぎ登り、現在のアイドル以上だったでしょう。
歌舞伎の名場面や役者の浮世絵は大人気。江戸土産にも軽くて華やかなので、飛ぶように売れたようです。
そして、元禄時代以降、歌舞伎役者が着ていた刺激的な文様は当時の流行の最先端となり、
多くのはやり文様は歌舞伎から生まれたといっても過言ではありません。
文様は役者そのものであり、彼らの化身でもあったでしょう。
それらの文様の着物や、たばこ入れや手拭いなどの小物を身につけたり、持つことで、
憧れの役者との距離をぐっと身近なものにできました。
以下、役者が考案したいくつかの文様を紹介しましょう。

中村格子

中村格子

6本筋の格子のなかに「中」と「ら」を入れて「中六ら(中村)」と読ませます。中村勘三郎好みの浴衣文様。

菊五郎格子

菊五郎格子

立て4本、横5本の格子縞の中に「キ」と「呂」を置いて「キ九五呂(菊五郎))と読ませる。
三代目尾上菊五郎が「義経千本桜」で着てから人気になった柄。

芝翫縞

芝翫縞

4本筋の間に鐶(わ)繋ぎを入れて「四鐶(芝翫)」と読ませる。ちなみに「鐶」は箪笥の取っ手などの金具。

構わぬ

構わぬ

「鎌」「〇」「ぬ」で「構わぬ」。「水火も厭わず身を捨てて弱き者を助ける」という心意気。
市川團十郎が舞台で着ました。

斧琴菊

斧琴菊

「斧(よき)」「琴」「菊」で「良き事聞く」の語呂合わせ、「判じ物文様」のひとつ。
三代目尾上菊五郎が使用しました。

播磨屋格子

播磨屋格子

8本と2本の筋で「はり」、変体仮名の「ま」で「播磨」。
中村吉右衛門の屋号「播磨屋」から名付けられました。

この他にも佐野川市松が使った「市松文様」、團十郎の「三枡文」、坂東三津五郎の「三津五郎格子」などなど、
数多くの役者文様が考案されました。
江戸時代の歌舞伎役者はファッションリーダーでもあったわけで、役者同士も人気を高めようと
着物の柄、たばこ入れなどの持ち物、そして、日頃の仕種までを常に気を配っていたようです。

12 February 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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