クマさんの文様がたり

源氏香

私の生活の中で「香り」はほとんど無縁なものです。
しかし、誰が乗ったのか、仕事場のエレベーターに残っている香りに時々、ハッとする時もあります。
最近は「香」に興味を持つ人も多くなっていると聞きますし、
アロマテラピーの開発も進んでいるようで、生活の中に取り入れている知り合いもいます。

日本での香の歴史は古く『日本書紀』にも香木のことが載っていますし、
「蘭奢待(らんじゃたい)」という有名な香木は正倉院御物となっています。
奈良時代に、仏典と共に沈香・安息香など、様々な香料がもたらされました。
香木は仏前を浄め、邪気を払う仏教儀礼の「供香(くこう)」として用いられ、宗教的な扱いで使用されていました。

平安時代になると香料の輸入も多くなって、複雑に練り合わせ、
香気を楽しむ「薫物(たきもの)」が貴族の間で行われました。
香の楽しみ方も、衣服に香りを付けたり、部屋に香をたきしめたり、自分のために芳香を聞いたりと、
貴族の生活のなかでは香を楽しむ習俗が生まれました。
平安時代の王朝文学『枕草子』『源氏物語』にも香の記述が多く見られます。
室町時代になると「東山文化」の茶道、華道、とともに、香道が確立しました。
香木を産地名などから六つに分類し、さらに、その香りを五つの味で表現するという
「六国五味(りっこくごみ)」といわれる香木の分類法や組香が体系づけられました。
江戸時代には香道の道具も完成し、香道伝書も作られるようになり、
香道のひとつ「源氏香」という「組香」が生まれました。
香元がいくつかの香を焚き、香を聞く数人の客はその香を聞きわけて名前を当てる遊びです。
源氏香は基本の図形があります。まず、5本の縦線を基本として構成され、右から第1香、第2香となり、
五つの香を聞いた後に同じ香と思われるものの頭を横線で繋ぐことで源氏香の図が表現されます。
全部で52通りの図からなり、源氏物語全54帖のうち、「桐壺」と「夢浮橋」を除く52帖の巻名が付けられています。

源氏香の文様は幾何学的な形にもかかわらず、古典文学を基にしていることから、
物語性のある雅な趣を持ち、気品の高い文様とされています。
着物や帯の衣装文様に、また箱や道具類などの工芸文様としても多く使われました。
最近では落雁のような和菓子にも使われています。
これらの文様は「源氏香」という名前故に、王朝趣味の文様ともいえます。

源氏香
源氏香 源氏香

左の図はずいぶんおおらかな形になっています。本来は縦線5本の構成。
右図は同じような形ばかりですが、本来は52通りの形があります。

変わり網代に源氏香

変わり網代に源氏香

大きな網代文様の中に、源氏香の文様を配したもの。
源氏香は単独の文様は少なく、様々のものと組み合わされて使われています。

梅に源氏香

梅に源氏香

源氏香だけでも高貴な文様なのに、さらに梅の香りを加えてグレードアップ。

源氏香 梅に源氏香 宝尽くしに源氏香
源氏香 梅に源氏香 宝尽くしに源氏香

源氏香に、様々なものを加えてより品格を上げようとしています。

生活に香りを取り入れてストレスを解消し、心身をリラックスさせることができるのならば、
お香やアロマセラピーも良いでしょう。
けれども、私は無味無臭、無色透明と、雅とは無縁な素っ気ないのが好きなんです。
ストレス解消はもっぱら、埃っぽい古裂蒐集です。
でも、集めた布は天然の防虫剤を入れた専用の箪笥に収めています。我ながら、変な爺さんとおもいます。

19 February 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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