クマさんの文様がたり

紗綾形 (さやがた)

この文様は桃山時代から江戸初期にかけて、中国から輸入された、
組織り(1枚の布を異なる織り方を使って織り上げる)による絹織物、 紗綾織(さやおり)の地紋として使われていたので、
日本では「紗綾形」と呼ばれるようになりました。
地図の上では寺院のマークになっている「卍(まんじ)」が基本の形です。
最古の卍はインドの新石器時代に見られるようです。そして後に、梵字として使われ、中国へは仏典として伝わりました。
その時に卍の読みを万と同じにしたことで、万徳をもたらす吉祥の意味合いを持つようになりました。
日本には奈良時代に伝わり、薬師寺本尊の薬師如来の掌と足の裏に描かれています。

紗綾形の文様構成は「卍つなぎ」の一種です。「卍」を菱形に少しつぶし、四方に連続文様でつなげたもので、
「卍崩し」「卍繋ぎ」「菱卍」「雷文繋ぎ」などとも呼ばれています。
関西では江戸時代から「綸子形」と言っていたようです。
それは、女物にこの地紋を織り出した綸子織が最も珍重されていたからでしょう。

この地紋には菊や梅など様々な吉祥文様をあしらい、慶事礼装用の着物として普及してきました。
最近では結婚衣装の地紋に多く使われています。
紗綾形の地紋は光の当たり方で微妙な陰影が生まれ、より格調の高い文様となります。
そして、衣装以外にも社寺建築や工芸品の装飾にも多く使われています。
卍の四端を縦横に伸ばし連続した文様故、途絶えること無く永久に継続する「不断長久」、
家の繁栄や長寿の意味合いを持つともされました(連続文様にはどれも同じようなことがいえます)。

紗綾形

紗綾形

中国の紗綾織が起源の「紗綾形」文様は高貴な文様として、好まれた文様です。

紗綾形

紗綾形

「卍崩し」ともいえる文様です。武家の衣装にも使われた文様です。

紗綾形

紗綾形

紗綾形を少し装飾的にした文様。

綸子紋

綸子紋

この卍の文様は2本の線からできた連続文様なので、単純そうに見えますが、
実際に描いてみると角度の違いが少しでも起きるとどんどん歪んでしまい、細心の注意が必要です。

菱卍

菱卍

現代でも着物や陶磁器はもちろん、それ以外にも欄間や衝立、組子格子といった建築の部分にも用いられています。

紗綾形に捻梅 変わり紗綾形
紗綾形に捻梅 変わり紗綾形


紗綾形文様は「不断長久」の意味を持つ文様とされています。
にもかかわらず、映画やテレビの時代劇でおなじみの「お白州」の場面で、
町奉行の後ろには白と紺で描かれた大きな紗綾形文様の襖がかならず見えます。
この襖の紗綾形にはどんな意味合いがあるのか解りません。
そして、能の『鉄輪(かなわ)』の装束は赤地に紗綾形文様を摺箔したもので、
この文様は怒りの象徴として使われているようです。
しかし、紗綾形文様に似たものに怒りを表す「稲妻文様」があり、それと混同されて使われているような気もします。
これも、定かではありません。
文様には扱いを大きくしたり、色合いを強くすることで印象が大きく変化するものがあるので、
紗綾形が大きく使われた場合には、威圧的迫力という意味合いに変化して使われたかも知れません。

26 February 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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