かぶり物
陽気が暖かくなると、着るものにもバリエーションが増えるせいか、人の洋服を見ていても楽しくなります。
今回は普段あまり気にしていない、帽子、「かぶり物」の話です。
「かぶりもの」という言葉の語源は「冠(かんむり)」が変化して
「かぶり」「かぶりもの」になったといわれています。神事用儀礼装身具のひとつとして使われました。
かぶり物は埴輪にも見られるように、古くから日本に存在していたようです。
古墳時代の遺跡からは金銀で作られた冠帽が出土されています。
604年には日本で初めての官位、「冠位十二階」という制度ができ、官位によって冠の色も定められました。
その後も冠は男性が着用する、ステータスシンボルとして使用されることがほとんどでした。
平安時代には絵巻物でよく見かける烏帽子が登場します。
冠はこのように地位や階級、職業を示す象徴として使われ始めましたが、
どうして男たちは、自分の地位を示すのに帽子や、冠を着けたがるのでしょうか。
身分制度により、誰からもその人の地位が、明確に解るようにする必要があったとはいえ、
男たちは「より強く見せたい」という本能が強いようです。
その後、雨風や強い日射しを防ぐ笠が普及し、顔を隠すための女性用の笠もできました。
桃山時代になると、ポルトガルから西洋の帽子が持ち込まれ、
派手好きな武士や町人の間で、もてはやされるようになりますが、庶民的な広がりはありませんでした。
江戸時代になると、かぶり物と言えば、手っ取り早く、便利な「手拭い」が一番多く使われ、
かぶり方も鉢巻き、頬かぶり、姉さんかぶりなど、職業によって様々に工夫がありました。
その他のかぶり物も、中世以降身分の高い人々が使っていた笠、頭巾、被衣(かつぎ)、
帽子などが手軽に使えるように工夫され、一般庶民にも広がってゆきました。
現代の結婚式につける角隠しや、綿帽子は江戸時代には防寒用に使われていた実用品が起源だそうです。
男性用では、火消頭巾や、虚無僧がかぶる天蓋(てんがい)という深い編み笠など、特殊なものもあります。
後には、帽子やかぶり物にも贅沢禁止令が出たほど、それぞれに手軽なファッションアイテムとして愛用されました。
烏帽子(えぼし)
平安時代、貴族のかぶり物として用いられました。
冠尽くし
かぶり物尽くし。透額(すきびたい)、剣烏帽子、唐冠など公家や武士がかぶった帽子。
鳥兜と紅葉(とりかぶとともみじ)
『源氏物語』第七帖「紅葉賀」を表した文様。
朱雀院の紅葉賀で、光源氏と頭中将が二人で舞う曲「青海波」は舞楽中最も優雅な舞とされています。
鳥兜はその舞で着けるかぶり物です。
唐冠(とうかんむり)
舞楽および能で使用するかぶり物。古代中国のの冠をイメージしたもの。 背後に纓(えい)を左右に二つ突き出させるのが特色。
唐人笠(とうじんがさ)
中国から伝わった笠。祭礼の時に、唐人踊りなどで使用します。「唐人飴」売りもかぶっていました。
唐人飴売りのような行商人はそれぞれの商いに合わせたかぶり物を工夫しました。
この文様は異国情緒にあこがれる町衆の心をつかんだでしょう。
頭巾(づきん)
防寒用にかぶる丸頭巾。この形の頭巾は主に男性用で、剃髪した僧侶や茶人に好まれました。
千利休も愛用していたようです。
「大黒頭巾」とも呼ばれ金持ちの老人が好んで使用したことから、 素材も金襴緞子の高価な布が使われることも多かったようです。
踊り子(おどりこ)
この帽子は、歌舞伎でも使われる「雀踊り」のかぶり物。 雀がはねる様子を、編み笠をかぶった奴さんが踊る、豊年祈願の踊り。
踊花笠(おどりはながさ)
花笠踊りの笠。傘の骨に銀箔を置き、淡紅色などの造花をつけた花笠。
最近の帽子は職業や遊びの種類によって急激に増え、用途のみを考慮するだけでなく、
ファッションアイテムとしても、大切なものとなっています。
本来はそれほど日常生活に必要ではないと思われていた、かぶり物がこれほど注目されるようになったのは、
自分を飾ることへの関心の高まりでしょうか。
私も遊ぶ時にしか使わない帽子が、帽子掛けに収まらないほど重なっています。
12 March 2014
*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します
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