クマさんの文様がたり

王朝趣味

春の気配がして暖かくなると、どことなく気分も明るく晴れやかになります。
今回は「晴れの文様」として好まれた「王朝趣味」の文様です。
主に、平安時代の文学にちなんだモチーフを使って表現された文様です。
御所車、源氏車、几帳(きちょう)、檜扇、貝桶、鼓、文箱といった、平安貴族が使っていた調度や道具文様からは、
当時の『源氏物語』などの文芸作品を象徴する風雅な趣が伝わります。
それゆえ王朝への憧れも重なって、吉祥の意味合いを持たせた文様となっています。
雅な和歌のやりとりを彷彿させる優美な趣を文様に託して、身に着けたのでしょう。
友禅のような高価な小袖に多く使われ、現代では第一礼装用の振り袖、留袖や帯の文様として用いられています。
型染めのなかでは「源氏車」「檜扇」などが人気の柄でした。

御所車

御所車

牛が引く牛車(ぎっしゃ)のこと。平安時代の貴族たちが外出時に用いる御所車で、美しく飾られています。
乗り物としては平安時代だけのものですが、『源氏物語』の舞台を思い起こさせ、文芸文様衣装として後世まで伝わっています。
現代でも古典をイメージさせる素材として欠かせない文様の一つとなっています。

雛形本(ひながたぼん)

王朝趣味などをモチーフにした文様見本集に「雛形本」があります。
小袖のスタイルは桃山時代に完成されましたが、
江戸時代になると、着物に描かれた柄が一気に自由になり、こぞって新しい文様が考案されました。
小袖雛形本ともいわれる、着物文様の指南書が江戸中期から後期にかけて刊行されました。
木版刷りの最先端のファッションブックで、約150年間の間に120種以上が刊行されています。
小袖をあつらえる際の絵柄見本ですが、あらゆるものが文様となり、しかも大胆な柄が多く見られます。
当時の人たちの好みがよく解かり、見ているだけでも楽しい本です。
しかし、実際にはそのまま拡大すると不自然なバランスになったり、印象が違うことが起こって、
実用性には問題があったようです。
それでも、これだけの種類のデザインブックが刊行されていたことから、
当時の人たちの流行に対する旺盛なパワーが解かります。

御所車

雛形本 御所車

源氏車(げんじぐるま)

雛形本 源氏車(げんじぐるま)

源氏車(げんじぐるま)

御所車の車輪のみを表現した文様を「源氏車」といい、「御所車文様」と同じ意味合いを持ちます。
そして、形がおもしろく、物事がうまく回転する縁起の良い文様ともされ普及しました。

几帳(きちょう)

雛形本 几帳(きちょう)

公家などの邸宅で使われていた間仕切りの一種としての調度品。
文様では王朝を連想させるモチーフとして人気がありました。
冬は平絹、夏は生絹(すおし)の布を使い、華麗な絵柄の織物が使われました。
この図では文箱と梅の花を熨斗紙で包んだものが配され、より王朝文学の趣を増しています。

御簾(みす)

雛形本 御簾(みす)

布の縁取りをした簾(すだれ)のこと。御簾(ぎょれん)ともいい、公家などが部屋の中と外を分けるもの。
現代では神社で見かけます。この図は御簾の下に屏風が描かれ、画中画の効果を出しています。

生活が落ち着いてきた江戸時代には、晴れの日用の文様も町衆の中で、少しずつ普及し始め、
やがては贅沢禁止令が出されるほどに、お洒落に対してお金が使われるようになりました。
もちろん、宵越しの金は持たない江戸っ子ですから、
かなり無理をして、分不相応な贅沢をしていた人たちも多かったでしょう。

19 March 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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