クマさんの文様がたり

将棋の駒

文様の「将棋の駒」には「桜」との組み合わせが時々見受けられます。
この場合駒は「馬」という意味合いで使われています。
36回の「桜の花見」でも書きましたが、
歌舞伎『高坏(たかつき)』では「駒が勇めば,春を地に蒔く花嵐」と次郎冠者が踊ります。
桜の木につなげた馬が暴れると、満開の桜が散ってしまいます。
元は江戸時代の『山家鳥虫歌』の中で伊勢のはやり歌として扱われています。
また古今和歌集には「駒並めていざ見にゆかむふるさとは雪とのみこそはなは散るらめ」と
歌われているように、桜と馬は関係が深いようです。
さらに、馬肉のことを「桜肉」とも言います。新鮮な馬肉は桜色だそうです。

将棋

将棋

古い型紙なので、汚れや、歪みがありますが、棋板と将棋の駒尽くし文様です。

桜駒

桜駒

将棋の駒は,馬のこと。桜の木に繋いだ馬の上に桜が散っています。

桜と駒

桜と駒

桜と駒 桜と駒


江戸時代において将棋は庶民的で簡単にできる娯楽のひとつでした。
将棋の始まりは中国で、10世紀頃日本に伝わり、貴族や僧侶、武家の遊びとして広がり、
室町時代には将棋指しの芸人が生まれました。当時、将棋は賭博としても行われていたようです。

江戸時代になり、徳川家康は「将棋所」を作り、
優れた将棋指しには俸禄を与えて、幕府公認のプロの将棋指しを作りました。
その後、将棋の家元も誕生し、家元制度が完成しました。
以後、段位付けが行われ、江戸城では、「御城将棋」という御前試合が行われました。
これに伴い江戸詰の武士たちがこぞって指南を受けたこと江戸で大流行。
棋譜の写しや、『将棋図式』といった本を出版し、一気に地方に普及し、庶民的な娯楽へと広がりを見せました。
江戸庶民が手軽にできる知的ゲームはこのようにして隆盛を極めていきました。
将棋ブームのきっかけを作ったのは家康だったということです。

江戸の地質は関東ローム層、空っ風も強く埃っぽい町だったようです。
ですから、どの町内にも湯屋があり、湯屋の二階は座敷になっていて、将棋や囲碁など娯楽の道具が揃えられていました。
暇な人も、そうでない人もそこに集まり、世間話をしながら将棋などに興じていたようです。
情報センターの役割もしていたのでしょう。「湯屋将棋」ともいわれています。
同じように、床屋将棋、縁台将棋など「へぼ将棋」は盛んでした。

成金
成金 成金

将棋の駒の「歩」は敵陣に侵入すると「金」となります。
「歩」の裏は「と」と書かれていますが、「金」を崩した文字です。
歩の駒が金になるので「成金」と呼ばれます。
わかりやすく縁起の良い文様なので、誰からも親しまれた男性好みの文様です。

へぼ将棋の心理を言い当てた当時の川柳を紹介しましょう。
      半分は口で指してる下手将棋 (将棋を指している本人よりも、周りのギャラリーが口うるさい。)
      王よりも飛車が逃げたい下手将棋 (ついつい、大切な駒がどれなのか解らなくなってしまいます。)
      手を開けば金銀山の如くなり (宝の持ちぐさり。)
湯屋の二階のゲームセンターは常に大繁盛でした。

26 March 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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