クマさんの文様がたり

小花

洋の東西を問わず、誰からも可愛いと愛される「小花文様」。
ましてや、現代のように「カワイイもの好き」が多い時代にはぴったりな文様でしょう。
小さな花柄を全面に配した文様は明るく、華やぎがあります。
小花文様は特定の花ではなく、パターン化されたものがほとんどなので、季節を問わず常に使うことができます。
色使いの変化で雰囲気が大きく変化するので、若い人も、それなりの人も、多くの人たちが使える文様です。

正倉院の染織品の中にも「小花文錦」があることから見ても小花文様の歴史は古いと思われます。
といっても、現代から見ればそれほど細かい花柄ではありません。
文様はその起源からして、明確にその意味合いを示す必要があるため、
可能な限り、強く、大きく、鮮やかに表現されているものが好まれていました。
そうしたなか、小さな文様が出来たということは、それなりに文化の基準が上がり、
感覚が洗練されたからといっても良いでしょう。

無難な小花文様は幅広い層の人たちに親しまれた文様ですが、
江戸時代の刀や鉾などを入れる袋にも、なぜか小花文様のような可愛い柄が比較的多く見らます。
なぜでしょうか。人の命にかかわる武器を納める物ならではの無常感からでしょうか。
私の和更紗コレクションの中にも、花柄の刀袋がいくつかあります。
以前にも書きましたが、「小紋染め」そのものは武士の裃染めをしたことから急速に発展しました。
小紋の中でも小花柄は人気があり、家康所用の「小花文小紋胴服」は型染めの最も古い物として残っています。
当然可愛らしいという感覚ではなく、それまでに見たことのない精緻な文様柄として、貴重な物だったのでしょう。
刀袋の染めについても、当時2色以上の型染めは大変珍しく、
貴重なもの故に武士はこの布を大切な刀袋にしたのだと思われます。
小花文様はともかく、花柄そのものは、
権力者にとって、まずは華やかで、「見映えが良い柄」ということで好まれたのでしょう。
注意してみると、武具には意外と花柄が多く使われています。

刀袋と鉾袋

刀袋

刀袋

鉾袋

江戸時代に最盛期を迎えた「型染め」の小花文様のほとんどは単色染めです。
したがって、花柄は小さく可愛くても、染め色を渋い色にすれば、それなりの年代層の人たちが着られたわけです。
もちろん2色以上の型染めもできましたが、それらは型友禅や、更紗という高級品になってしまいます。
カラフルな小花文様は明治時代に外国から化学染料が入り、
やがてプリント技術が上がった大正時代に一気に普及しました。
着物の半襟に華やかな小花文様が多く使われるようになったのも明治から大正時代のようです。

小花

小花

小花

小花

小花

小花

江戸小紋の小紋柄です。
小花とはよく言ったもので、この小さな花を斑なく仕上げる、型彫り職人の技術の高さを見せつけられる文様です。
勿論、この型紙を使って染める職人も、高い技術を求められます。

古渡り更紗見本

古渡り更紗見本

鎖国であった江戸時代でも長崎を通して海外の生活用品、美術工芸品、薬品、衣類など様々なものが輸入されていました。
その中にインドやヨーロッパの更紗も大量に含まれていました。
更紗の細かな赤い小花文様は女性ならずとも、今までに見たこともない染め物で、大変な人気でした。
これらの更紗を「古渡り更紗」といい、武士や豊かな町人の間で多くの愛好者が出ました。
この図は日本向けのインド更紗で18世紀後半に日本に渡ったものです。


最近では男性用の小花文様のシャツやネクタイも多く見受けられます。
私も、45年以上前に京都の古裂屋さんで買った、薄茶の小花文様のネクタイをいまだに持っています。
使いすぎて、さすがにもう使えませんが、愛着があり、捨てることもできません。

09 April 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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