クマさんの文様がたり

京都3大祭りの一つ「葵祭」がもうすぐ行われる季節になりました。
五穀豊穣と人々の安泰を願う祭、正式には「賀茂祭」。上賀茂、下鴨両神社の祭礼として平安時代から続いています。
『源氏物語』にも「賀茂祭」を見物する場面が出てきます。
葵祭では、祭人の頭や山車の屋根、すだれなどや、境内の至る所に葵の葉を飾りつけています。
この葵には「カモアオイ」の別名があります。
賀茂神社の神紋が「二葉葵」。賀茂神社と深い関係を持つ丹波の西田家、三河の松平・本多の諸氏は葵を家紋としました。
松平を継承した徳川家は三葉の葵をあしらって「三つ葉葵」を家紋としました(ただしミツバアオイという植物は存在しません)。
それゆえに、江戸時代には葵の家紋はもちろんのこと、葵文様も徳川家一族以外には使うことはできませんでした。
徳川家の人々は京都の呉服商雁金屋などに誂え、様々な葵文様の着物を作っています。
現在でもいくつかの美術館で見ることができます。
ちなみに、元禄時代に活躍した日本を代表する工芸家「尾形光琳」は雁金屋五代目、尾形宗謙の次男です。
やはり豪商の若旦那は育ちが違うのか、常に大胆で、鮮やかな発想を見せました。

江戸時代といえば徳川様の時代。葵のご紋は権力の象徴ともいえる紋所。
したがって、以下紹介するのは明治時代の商人や町人たちが使用した葵文様となります。
明治になると徳川様の長い制約から解かれ、憧れの葵文様を自由に使えるようになりました。
明治時代も初めの頃は、葵文様は比較的大きく扱われ、気品ある縁起の良い文様として人気がありました。
そして、小紋染めに葵文様が使われると、葵文様も控えめな大きさになり、
一気に優しく、親しみやすい文様として普及したようです。

二葉葵は日本の林などに生息していた植物で、水はけの良い山中の木陰に群生します。
茎は地下茎がを這うように横たわり、春になると二股に分かれ先端にハート型の葉をつけます。
葉の間に淡い紅紫の目立たない小さな花をつけ、葉は常に太陽に向かい茎を長く伸ばします。
この性質から葵文様は「発展」の意味合いを持ち、縁起の良い文様とされていました。
アオイの名がついていますがアオイ科の植物ではありません。私には聞き慣れないウマノスズクサ科の多年草植物。

水葵

水葵

流水と葵の組み合わせ。実際には水生植物ではありません。

二葉葵

二葉葵

違い葵

違い葵

「向かい葵」ともいいます。

葵

比較的、自然の葵のイメージ文様。

二葉葵に三つ星散らし

二葉葵に三つ星散らし

葵唐草に桜

葵唐草に桜

葵の長い茎を唐草状に配したもので、葵の吉祥と唐草の永遠の繁栄を加え、
さらに桜の華やぎも取り込んだ、めでたい文様となっています。
曲線のおもしろさを味わえる文様です。

葵文様3点
葵文様 葵文様 葵文様


葵祭が終わると季節が夏へと向かいます。
燕も飛来し、夏モードに切り替えです。
今年こそ、去年のように天候不順が続かないように、五穀が豊かに実ることを願うばかりです。

07 May 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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