クマさんの文様がたり

鳳凰

鳳凰は中国の古代伝説による空想上の高貴な鳥、霊鳥です。麒麟、龍、亀と並んで四霊とされています。
鳳は雄、凰が雌。優れた王が出て天下が治まれば現れる瑞鳥です。
中国のみならず、東アジア全域にわたって、不死鳥として説話や説教に登場し、装飾にも使われています。
孔雀、鶏、蛇、龍などを合体させた鳥で、豪華で優美な姿は吉祥の意味合いを高めます。
梧桐(青桐)の木に棲み、竹の実を食すと伝えられています。
日本では桐と混同し、文様では桐の花、葉との組み合わせが多くなっています。
日本には奈良時代に伝わり、正倉院御物の錦にも鳳凰が描かれています。
鳳凰といえば平安時代に建てられた宇治、平等院の阿弥陀堂でしょう。
建物の構成が鳳凰の姿に似ていることと、屋上に鳳凰を置いたことから、「鳳凰堂」と呼ばれています。
平安時代には「桐竹鳳凰文」が天皇の衣装や身の回りのものに飾られていました。

時を経て江戸時代には庶民の暮らしの中でも使用されるようになりました。
しかし鳳凰文様は特に優雅な吉祥文様ゆえに、特別な扱いを受け、婚礼などの晴れの舞台で登場することがほとんどです。
特に女性には大変愛好され、刺繍でできた鳳凰は見事なものです。
江戸時代の中頃から木綿が武士や庶民の間でも使用され、藍染めの風呂敷などが普及するようになりました。
藍染め屋では嫁入り道具の一つとして大きな鳳凰に桐の花を、筒描きという技法で染めた布団表が大人気となりました。
見栄もあり、人々は競って鳳凰や鶴亀、松竹梅といっためでたい柄を染め上げました。
このような筒描きで染めた夜具一式を「染め夜具」といって
婚礼道具として持ってゆく風習が昭和の初め頃まで続いていました。
しかし、鳳凰文様も流行りすぎると世俗化され、ふすま紙や、花札の柄にもなりました。

鳳凰に桐 (雛形本より)

鳳凰に桐

鳳凰 鳳凰
鳳凰 鳳凰

桜に鳳凰と龍丸

桜に鳳凰と龍丸

日本独特の丸文様。

古代雲凰

古代雲凰

花に鳳凰

花に鳳凰

鳳凰

鳳凰

和更紗の鳳凰文様。典型的な堺更紗の色調。

鳳凰に壽の字

鳳凰に壽の字


最近はまったく縁が無くなりましたが、子どもの頃、図画の展覧会で賞をとり、
鳳凰で枠取りされた賞状を頂いた時は子ども心に、急に一人前になったような気がして、うれしかったものです。
やはり鳳凰は普段の生活にはなじまない、気取った文様でしょう。
生活になじまない文様も時には必要であり、ありがたいものです。
そういえば、「福沢諭吉」の裏側にも大きな鳳凰が印刷されていますが、やはり縁遠い。
崩すとすぐどこかへ飛んで行ってしまいます。

21 May 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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