クマさんの文様がたり

唐子

先日、電車でわたしの隣に座った母親が、膝の上に子どもを座らせたら、その子がじっとわたしの顔を見て目を離しません。
こちらも思わず笑顔で答えたら、ますますこちらを見つめられ、つい、いろいろな表情をしてしまいました。
白髪頭が珍しかったのかも。
子どもの仕種、表情には、命のまぶしさがあります。
「こどもの日」は過ぎてしまいましたが、今回は元気な子どもの遊び文様です。
日本の文様では人物柄は極めて少ないなか、「唐子(からこ)」という、子どもの文様だけは例外的に人気の柄です。
唐子は髪の毛を頭の上や左右で結い、他を剃り落とした髪型で、中国風の衣装を身につけた童子です。
日本では「唐子」と呼びました。子どもはなんといっても福をもたらしてくれます。
中国では「百子の図」といって描かれた子どもの多さを競った絵画や工芸品があります。
多くの子どもが遊ぶ図柄が好まれました。

日本では古くは正倉院のフェルト「花氈(かせん)」の中央に唐子が見られます。
日本でも「多子多福」「家族繁栄」の文様としてこの可愛らしい童子が好まれ親しまれました。
特に江戸時代には中国や、日本の風俗をテーマにして「唐子遊び」といった文様を定着させました。
しかし子どもの遊びだけではなく、中国の生活習慣や、日本での年中行事的なものを
唐子に託して文様化されているものも多く見られます。
大人の仕種をまねている感じもあり、子どもや女性の着物などに使われました。

長崎県三川内焼(みかわちやき)、別名平戸焼は唐子文様を得意とした焼き物の産地です。
平戸藩藩主、松浦鎮信(まつうら つねのぶ)の御用窯であった平戸焼は染め付けの磁器で有名。
磁器のの窯を作ったのが始まり。七人唐子、五人唐子、三人唐子の絵柄が有名です。
藍色の唐子の絵柄が現在でも人気で、大皿に400人の唐子を描き込んだものもあります。

江戸時代後期に出版された、和更紗の指南書『更紗図譜』には「唐子手」という文様の見本が載っています。
異国情緒のある人物柄は更紗のなかでも人気があり、バリエーションも多く見られます。
今回は和更紗の中から唐子文様を紹介しましょう。

『更紗図譜』より

『更紗図譜』より

和更紗の唐子文様。(手描き更紗)

和更紗の唐子文様。(手描き更紗)

和更紗の唐子

和更紗の唐子

長崎更紗の一部分。

和更紗の唐子

和更紗の唐子

日本独特の丸文様。

和更紗の唐子

和更紗の唐子


江戸時代に日本を訪れた朝鮮通信使の一行は文化交流使節でもあり、日本各地で歓迎されました。
海外との交流が厳しい時代、異国の文化には大きな刺激を受けました。
なかでも少年たちが踊る「唐子踊り」という民族舞踊は大変人気があったようです。
このようなことも唐子文様の人気に拍車をかけたのでしょう。

唐子遊びの柄は着物や工芸品だけではなく、
日光「陽明門」などの建物、京都祇園祭の山車など思わぬ所に隠れるように存在しています。
探してみるのも面白そうです。
どの彫り物も「成長」「発展」「魔除け」などの願いを込めて、
子どもたちの教えになるような内容のテーマで、さまざまな教えを唐子の彫り物で絵解きをしています。
文字など読めなくてもこれらの唐子の彫り物を見れば、ありがたい教えに興味を持つことでしょう。

28 May 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

バックナンバー
vol.096鳳凰21 May 2014
vol.09514 May 2014
vol.09407 May 2014
vol.09330 April 2014
vol.092蜘蛛の巣 蛸絞り23 April 2014
vol.091蹴鞠(けまり)、手鞠(てまり)16 April 2014
vol.090牡丹09 April 2014
vol.089小花02 April 2014
vol.088将棋の駒26 March 2014
vol.087王朝趣味19 March 2014
vol.086かぶり物12 March 2014
vol.085早蕨 (さわらび)05 March 2014
vol.084紗綾形 (さやがた)26 February 2014
vol.083源氏香19 February 2014
vol.082役者文様12 February 2014
vol.081海老・蟹05 February 2014
vol.080三番叟29 January 2014
vol.079扇 扇子22 January 2014
vol.078初釜15 January 2014
vol.07708 January 2014
vol.076正月飾り 熨斗(のし)01 January 2014
vol.075十二支25 December 2013
vol.074座敷遊び18 December 2013
vol.073千鳥11 December 2013
vol.07204 December 2013
vol.071楽器27 November 2013
vol.070水鳥20 November 2013
vol.06913 November 2013
vol.068秋の収穫 大根06 November 2013
vol.067唐草30 October 2013
vol.066鐙(あぶみ) 武蔵野23 October 2013
vol.065苧環(おだまき) 糸巻き16 October 2013
vol.064小紋の文様構成
(繋ぎ、散らし、破れ、崩し、尽くし文様)
09 October 2013
vol.063小紋三役02 October 2013
vol.062露芝(つゆしば)と秋草25 September 2013
vol.061月と兎18 September 2013
vol.060茄子11 September 2013
vol.059葡萄04 September 2013
vol.058撫子 ナデシコ28 August 2013
vol.057瓢箪(ひょうたん)21 August 2013
vol.056麻の葉14 August 2013
vol.055蝙蝠07 August 2013
vol.054朝顔31 July 2013
vol.053鉄線24 July 2013
vol.052立涌(たちわく、たてわき)17 July 2013
vol.051浴衣10 July 2013
vol.050七夕 星03 July 2013
vol.049雑巾 江戸のリサイクル26 June 2013
vol.04819 June 2013
vol.047雨 雨龍(あまりょう)12 June 2013
vol.04605 June 2013
vol.04529 May 2013
vol.04422 May 2013
vol.04315 May 2013
vol.042江戸の子どもたちと玩具文様08 May 2013
vol.041端午の節句 菖蒲文様01 May 2013
vol.040貝文様 潮干狩り24 April 2013
vol.039向かい文様  江戸時代の恋愛観17 April 2013
vol.03810 April 2013
vol.037霞か雲か03 April 2013
vol.036桜の花見27 March 2013
vol.035「花」といえば桜20 March 2013
vol.034春野13 March 2013
vol.033蘭、四君子06 March 2013
vol.032桃の節句27 February 2013
vol.031天神様と梅20 February 2013
vol.03013 February 2013
vol.029竹 - 206 February 2013
vol.028竹 - 130 January 2013
vol.02723 January 2013
vol.026蓬莱山と松16 January 2013
vol.025門松09 January 2013
vol.024宝尽くし03 January 2013
vol.023留守文様26 December 2012
vol.02219 December 2012
vol.021悟り絵12 December 2012
vol.020吹き寄せ05 December 2012
vol.019銀杏28 November 2012
vol.018紅葉狩り21 November 2012
vol.01714 November 2012
vol.016道具07 November 2012
vol.015人物文様31 October 2012
vol.014実りの秋24 October 2012
vol.01317 October 2012
vol.012草双紙と文具10 October 2012
vol.011小紋-2 型地紙と型彫りの技法03 October 2012
vol.010小紋-1 江戸小紋26 September 2012
vol.009江戸のガーデニングブーム19 September 2012
vol.008重陽の節句12 September 2012
vol.00705 September 2012
vol.006文字小紋29 August 2012
vol.005蜻蛉(とんぼ)22 August 2012
vol.004団扇15 August 2012
vol.003波文様五題08 August 2012
vol.002『波紋集』01 August 2012
vol.001梅鶴に松葉(うめづるにまつば)25 July 2012