クマさんの文様がたり

柏と沢瀉(オモダカ)

「端午の節句」も終わり、ちまきや柏餅の時期は過ぎてしまいましたが、今回は柏と夏の植物文様の沢瀉。
小紋の文様で見ると両方とも尖った3枚葉で構成された似た文様です。

大きな柏の葉は古代では食べ物を盛る器として使われていました。
柏の葉は秋になって枯れても春の新芽が出るまで、葉を落とさないでいます。
「葉守の神」が柏の木に宿るとされています。
このことから柏の葉は「家系が途切れることがなく、子孫が繁栄する」という意味合いを持って扱われ、
神事の供物の器としても使われていました。

神社での「拍手(かしわで)」は柏の葉が掌に似ているからという説もあります。
また神に供える食べ物を作る神官を「膳夫(かしわで)」というようです。
このように、柏、柏の葉は神様との縁が非常に強い植物です。
もちろん文様としても登場しますが、「葉守の神」といわれるわりには品格の高い扱いはされず、
庶民的なごく普通の文様として使われる場合がほとんどです。
でも、江戸の人たちは「柏」といえば「葉守りの神」ということをみんな知っていたのは当然です。

柏の家紋
柏の家紋
三つ柏 蔓柏 抱き柏
柏の格子
柏 柏の格子
鮫鬼柏 結び柏
鮫鬼柏 結び柏
鮫は点のこと、鬼柏は切れ込みの大きいこと。
三つ柏 三つ柏
三つ柏 三つ柏

沢瀉

「沢瀉」といえば植物のオモダカよりも歌舞伎の「澤瀉屋」を連想する人の方が多いかもしれません。
澤瀉屋は市川家の屋号。初代市川猿之助の生家が副業として、薬草の沢瀉を扱う薬屋を商っていたといわれています。

沢瀉は池や沢に自生する水草の一種。細長い矢尻状の葉が特徴です。
葉脈が盛り上がっているので「面高」と呼ばれています。
7月から8月の始めに白く丸い3枚の花弁をつけた可憐な花を咲かせます。
平安時代にはこの三弁の白い花と葉の形の風情が好まれ、観賞用の植物として人気がありました。
沢瀉が群生している様子はまるで矢尻を並べたように見え、武士に好まれました。
そのことから「勝ち草」「勝軍草(しょうぐんそう)」などとも呼ばれていたそうです。
鎌倉時代の武士の兜や鎧、直垂(したたれ)の文様に使われていました。
そうした武士の戦陣における縁起が担がれ、沢瀉は武家の家紋に多くみられます。
葉だけのものと、花を組み合わせたものとがあります。

沢瀉の家紋
沢瀉の家紋
立沢瀉 細抱き沢瀉 三つ追い葉沢瀉

沢瀉

沢瀉

沢瀉

沢瀉

沢瀉は現代でもシャープな形が面白く、
友禅染めの水辺文様として、波文様と組み合わせてよく使われています。
夏の植物文様のひとつ。


おせち料理に欠かせない「クワイ」は沢瀉の栽培変種だそうです。
塊茎が肥大化したもので、日本ではその外形から「芽が出る」縁起が良い食べ物として食べられるようです。

今回も縁起担ぎの文様でした。頼れるものはすべて神頼み。
江戸時代は特に、縁起担ぎが大好きでした。

04 June 2014

*このページに掲載されたコンテンツは熊谷博人に帰属します

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